有川浩・原作「県庁おもてなし課」「フリーター、家を買う。」今、注目度No.1作家が贈る究極のエンターテインメント!! 図書館戦争

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2012.06.13

「図書館戦争 革命のつばさ」公開記念、スペシャル座談会 - 有川浩 × キャラメルボックス


 今回スペシャル企画のゲストとして登場いただくのは、「図書館戦争」生みの親である有川浩さんと、文庫「図書館戦争」のプロモーションビデオにも出演された、大人気演劇集団「キャラメルボックス」から、阿部丈二さんと多田直人さん。

 小説と舞台という違いはあれ、上質のエンターテインメントを発信し続ける3人のクリエイターに、「図書館戦争」について、そして創作について語っていただきました。

(聞き手・構成/角川書店編集部)


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★まずは、有川さん、阿部さん、多田さんに、「図書館戦争 革命のつばさ」の予告編を観ていただきました。

予告編を観終わって

阿部 予告編の最後のタイトル、きれいでしたね。

有川 プロダクションI.Gって、とてもクオリティの高いものを作っていらっしゃるスタジオさんなんです。

阿部 TV版も拝見させていただきました。画もきれいで、すごく面白かったです。

―― 『図書館戦争』文庫のPVを収録したのはもう1年以上前だと思うんですが、違うメディアの作品とコラボするということで結構緊張されたんじゃないですか。

阿部 そうですね。お話をいただいたときはいろいろ心配はありました。でも収録が舞台の稽古の後だったので、そのままみんなで向かって、ノリとしては稽古のテンションのまま楽しくやれましたね。結構バタバタでしたが(笑)。

多田 共演者、みんな劇団のメンバーだったしね。

――このHPは、キャラメルボックスを知らない方も見られると思いますので、まずは劇団のご紹介をお願いできますか。

多田 キャラメルボックスは、設立27年目の劇団です。昔はファンタジーを得意として、タイムトラベルものもたくさん上演していたんですけど、最近は、原作ものにも挑戦しています。いろんな作家さんの名作をお借りして舞台化し、原作ファンの方にもキャラメルボックスのお客さんにも楽しんでいただいてます。観に来てくださる方の年齢層も、学生さんから昔学生だった方まで幅広いですね。CSC(キャラメルボックス・サポーターズ・クラブ)っていうJリーグのサポーターのようなクラブも今年で結成20周年なんですよ。

阿部 僕たちはファンクラブではなく、サポーターズクラブって呼んでるんですけど、そういうかたちで僕たちを応援してくださっている方がたくさんいらっしゃいます。サポーターズクラブ歴20年目っていうかたも普通にいらっしゃって。

――有川さんも今や、すっかりサポーターですね(笑)。

有川 CSC、一応入ってます(笑)。

阿部 最近は時代劇も含めて、作品のジャンルに関してはいろんなものをやっているんです。
 僕がキャラメルボックスで好きなのは、例えば親子では観に行きづらいとか、そういうものをぜったい感じさせないところ。お客さまの層が幅広いっていうのももちろん嬉しいんですけど、誰と来ても楽しんでもらえる、不快な気持ちにさせないっていうのを僕はすごく大切に思っているんです。自分の劇団なんですけど、そこが好きなところなんですよね。

――有川さんの作品もそうですよね。

有川 そうですね。キャラメルさんの客層の幅広さには、自分の作品と通じるものを感じますね。私も一冊買って家族中で読んでくださっている方がすごく多くて。これから冬に向かって、キャラメルボックスと一緒に舞台を創っていくんですけど、お互いのお客さんが反応し合って、良い感じに膨らんでくれたらいいな、と期待しています。

阿部 キャラメルボックスのお客さんが先生の作品を知ればぜったいに好きになってくれると思いますし、先生の読者がキャラメルボックスの舞台を観てくださったら好きになってほしいですね。もっと大きなことを言うと、舞台というものを好きになってくださるきっかけになったら......と思います。そこに大きな可能性を感じるんですよね。

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映画「図書館戦争」、4年越しの完成

阿部 今回の映画オリジナルキャラクター、児島清花はどうやって決まったんですか?

有川 これはアニメスタッフさんが出してきてくれたキャラクターなんです。

阿部 どうでしたか? 自分の世界にほかの人たちが考えてくれたキャラクターが登場する感じって。

有川 最終的にはちゃんと図書館戦争の世界になじんでくれるよう調整を入れさせていただいたので、よく溶け込んでくれたな、と思います。
 最初は、恋愛的な部分で引っ掻き回すキャラクターを入れたいという話だったんです。ただ、単に色恋沙汰にしちゃうのは、図書館戦争の感覚とちょっと違う。「ちゃんと仕事を大事にしてる、それを理解できる女性として書いてください」ってお願いしました。

――ちなみに児玉清さんの名前をオマージュしているんです。

多田 ほんとだー。

有川 「さやか」って読むんですけど、私、もう完全に「きよか」だと思っていて、ずっとそう読んでいました(笑)。実際にこの声をあててくれた声優さん(潘めぐみさん)が書店員をやっていて、「図書館戦争いっぱい売りました!」っておっしゃってて(笑)。売ってくれたあげく声まで演っていただいて(笑)。

多田 それは嬉しいですね。自分が売った本の映画に出られるんですもんね。

有川 このオリジナルキャラクターをもらったときに私がいちばん気にしたのは、この子がただ単に嫌われるキャラクターになってしまうんじゃないかということ。特に堂上と郁の間を恋愛的にやきもきさせるっていう目的だけで出しちゃうと、「こいつ邪魔」って思われるだけのキャラクターになってしまう。最初にあがってきた脚本はそういう方向に行っちゃいそうな感じだったので、「それは産み出されたキャラクターが気の毒なのでやめてください」ってお伝えしました。

阿部 小説を映像化するときって、原作を忠実に表現するのが王道だと思うんですが、でも「せっかくやるなら」と、ちょっと新しい要素を入れる時もあるじゃないですか。でもそれがマイナスに働くのなら、そのまま王道でいってくれたほうがぜったい良いわけなんですよ。プラスの要素にできるかどうか、ですよね。僕たちも原作ものを舞台にするときにやっぱりそれは意識してやらなければいけないので、そういう点で今回新しいキャラクターがこの世界になじんでくれたっていうのは、プラスで楽しみな要素ですよね。

――再会したレギュラーキャラクターはいかがでしたか?

有川 嬉しかったのが、TVシリーズが終わって4年経っているのに、今回収録前のキャラクター合わせが必要なかったんです。普通こんなに時間が経っていたら、前のキャラクターを忘れますよね。だから役をあらためて掴むために何度かテストしたりするんですけど、一回テストをしただけで音響監督が「みんな大丈夫だね、じゃあいこうか」って。4年間、みんな、すごくキャラクターを大事にとっててくれてたんだなって。嬉しいし、いじらしかったですよね。「みんな、待たせてごめんね」っていう思いでした。

――「必ず映画化がある」って信じていたんですね。

有川 面白かったのが、みんなそれだけキャラクターをしっかり残してあるから、アドリブを結構入れてくるんです。台本の中にないけど、堂上だったらここでこう言いたいはずっていうのを、邪魔にならない感じでテストのときに入れてくる。例えば稲嶺が司令を引退して顧問になるんだけど、「稲嶺顧問」って書いてある台詞を、「堂上はまだ司令って呼びたいはずだ」って思って、一瞬「稲嶺司令」......って言ってしまって、「顧問」って言い直したりするような、そういうアドリブをみんながんがん突っ込んできて、しかもそれが合ってるから全部採用になってる。

阿部 ほんとに役に入ってらっしゃるんですね。

有川 そうそう。アニメの現場でこういうのって珍しいと思います。

多田 そういう、役や作品を深くするようなアドリブががんがん出るっていう現場は、すごいですね。

阿部 現場の空気も良いんだろうね。

――イッセー尾形さんも今回初めてだったんですけど、アドリブが楽しかったですね。

有川 当麻蔵人なんですけど、すごく可愛くなってましたよ(笑)。すごい素敵です。「このままいってください、このままいってください」って(笑)。

阿部 あれだけ一人芝居をされてる方だから、底力や引き出しがたくさんあるんだろうなって思いますね。

有川 声優さんたちがビックリしてましたもん。「声優初めてとは思えない」って。

多田 初めてなんですか!?

――イッセーさんはイッセーさんでアフレコの現場が初めてで、声優さんたちに嬉々として「おお!」みたいな表情をなさっていました。

有川 業界内でしか通用しない言葉ってあるじゃない、例えば「パクっちゃったのでもう一回いきましょう」とか。「パクっちゃう」っていうのは、つまり画の口パクが残っちゃうことを言うんだけど、「え、すみません、パクっちゃうって何ですか?」って(笑)。

――でも、きっちり合わせてきていらっしゃいましたね。

有川 今回当麻先生もものすごい聞きどころですね。

阿部 「図書館戦争」に新たなファミリーが加わった、感じですね。

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原作『図書館戦争』は「ふざけている」作品

――今回の映画の原作である「図書館戦争」、お二人は読まれたそうですね。

有川 このシリーズは、知らない人にすすめるときに一番気を遣うシリーズなんですよね。いちばん〝ふざけている″ので、このノリを共有できる人とできない人がいるだろうな、と。図書館が軍隊みたいな組織を持っているということが受け付けられない人もいると思うので。
知らない人に何か一冊読みたいんだけどって言われたら、「阪急電車」って言うんです。「図書館戦争」は、もちろんすごく好きで大事な作品なんですけど、受け入れてもらえるかどうかは、結構賭けかなって。どうでしたか?(笑)

多田 僕、すぐ読んでしまいました。ラブコメな部分が、僕のなかで大丈夫なのかな?と思って読んでたんですけど、ぜんぜん大丈夫でした(笑)。女の子的な部分というか、きゅんきゅんできる部分が、結構共感できるんですよ。

有川 「作家として勝った」って感じですね、嬉しい。

多田 全然抵抗なく読めましたね。

阿部 僕も構えていた部分があったんですよね。それで今回こういう機会を頂いて読んだんですけど、僕は先生がそこまで言わなくても大丈夫だということを、今日先生にお伝えしたいですね。
 この作品の世界はすごくしっかり確立しているので、その世界のファンというか、住人というか、ものすごく熱い人たちが生まれるっていうのが読んでいてすごく分かりました。

有川 どのシーンが好きっていうのはあります?

阿部 稲嶺司令のところはすごく......印象に残ってますね。あと当然ですが、最後に郁が一人で立ち向かうところは、成長を感じるし、スカッとした達成感があります。

有川 よくがんばってくれたなぁって。バカだけど(笑)。

――そういう感覚なんですね、「がんばってくれたなぁ」という。

有川 当時の担当の編集者さんに、「今度の女の子はおバカな子にしようよ」って言われたキャラクターなんですよ。最初からバカって言うのは決まっちゃってたので(笑)。そのハンデを超えてよく頑張ってくれたもんだと。

多田 大柄っていうのは最初から決めてらっしゃったんですか?

有川 最初からですね。これは個人的にね、闘いたい部分があって。知り合いの作家さんが、「男の子のほうが身長は低いっていうカップルを書きたい」って担当編集さんに言ったら、「男の子のほうが背が低いなんて萌えないからダメだよ」って却下されて。その作家さんとは当時親しく話をさせてもらってたんで、その一件を聞いて「なんだと!?」ってなって(笑)。「身長が逆になっても萌えは成立するって見せてやるよ」って、そのリベンジという意味もちょっとありました。

多田 萌えますよ!

阿部 ただ可愛い感じで身長が高いっていうのとはまた違うじゃないですか。そこが良いですよね。

多田 しかも、それがたまに出てくるエッセンスみたいなところがいいんですよね。

阿部 郁のキャラクターって、男勝りだけどやっぱりすごく女の子であって、すごく難しいだろうなって思うんですよね。キャラクターが繋がってないよねっていうリスクがある中でそれが成立しているのが流石だなって思います。その場その場は成立していても、全体的に見たら崩壊してるってことになりかねないので。遊びながらでも芯がしっかり通ってる......そこがキャラクターがしっかり書けてる作家さんだなって思いますね。

有川 すごい褒められた(笑)

多田 僕は、好きなシーンはどこかな?って思い返したときに、小牧が毬江ちゃんのためにがんばるところが先ず浮かんできました。

有川 意外とロマンチック......(笑)。

多田 僕、結構ラブコメですね。

阿部 いや、単にラブだよね。そこコメディじゃないもん(笑)。

有川 「あの子のためなら」っていう、そういうところですか?

多田 そうですね。自分の信念とか持ってて、ちゃんと特別な人のためにがんばれるっていうのが人間っぽいなって......やっぱラブなのかな?(笑)。

有川 この作品で多田くんの今まで開いてなかった引き出しを開けたかも(笑)。

多田 身長差もそうですし、歳の差もそうですし。「今後どうなんの?」っていうのがありつつの。わりと響いちゃうんですよね、萌えが(笑)。

有川 でもね、意外と男の人でも、「恋愛ものとか絶対ダメ」って言ってた人が、「でも有川浩のは読めちゃった、どうしよう」みたいなことは結構あるみたいで。面白いのは、おじさんとかがそういうところに反応してくるのが、自分に言い訳しながら反応してくる(笑)。

多田 ほんとはダメなんだけど、みたいな。

有川 いや、「ほんとはこんなおじさんが読んで喜ぶものじゃないかもしれないんだけど」って。皆さん、すごく予防線を引きながら感想を仰る(笑)。

阿部 やっぱり遊び心があるから、入りやすいんだと思うんですよ。ほんとにエンターテインメントの作品だと思いますね。

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キャラクターとカメラ

多田 図書館戦争は内容はもちろん、文庫版の巻末インタビューにもすごく感銘を受けて。あ、こういうふうに有川先生は作品を作っていらっしゃるんだなって、いろいろ分かって。登場人物たちにエチュードさせるみたいに物語をつくるっていうのはいいなと思ったんです。すごく演劇的で、それでキャラクターに命が吹き込まれていく......僕もエチュード嫌じゃないんですけど、エチュードやってと言われると、自分のことで精一杯で周りのことが見えなくなることがあるんです。なので、このキャラクターがこう動き出すから、こっちのキャラクターはこう動かすっていうバランスのとり方とか、決着のつけかたとかも、すごいな、と思いましたね。

阿部 キャラクターがしっかりしてないと、少なくとも演劇だとエチュードはできないんです。キャラクターがしっかりできているからこそ、その書き方ができるんだろうなと。

有川 エチュードを重ねて重ねて4巻までいっちゃったような作品なので......。

阿部 でも、結果的にそれがちゃんとストーリーになるじゃないですか。キャラクターが先に動き出す形で追っているのに、それがちゃんとストーリーになるっていうことは、やっぱり物語を作れるキャラクターが揃っているっていうことだと思うんですよね。僕たちがやってるエチュードも、なんのストーリー性も無いのであれば、それは決して見せ物にはならないし、商品にもならない。でも有川さんの場合それが商品になる、ストーリーになることがすごいなと思いました。それも制限時間が決まってるわけじゃないですか。だから、きっと無意識のなかでコントロールされていると、僕は思うんですよね。

有川 私がどうやってそこに介在しているかっていうと、映画だったら監督の立場、演劇だったら演出家の立場で介在しているんだと思うんですよね。なので、最初なかった設定が後から出てきたりすることがよくあるんです。私の物語の書き方は、出発点が九州だとしたら、とりあえず北海道まではたどり着いてください、あとは自由って言って放り出す、そういう感じなんです。その替わり交通手段は何を使っても自由です、経路も自由です、予算もいくらかかっても構わない。その途中で誰と会っても誰と別れても構わない。でも、北海道にたどりつくのはマスト。例えば途中で名古屋に立ち寄っちゃった、とかいうこともあるし。その経路はキャラクターの自由ということです。

―― その時最後はぜったい北海道まで行くっていう確信はあるんですか?

有川 そこを聞いてくれないんだったら、役者として雇わないですよね。

阿部 契約条件。(一同笑)

多田 これだけはやってね、遊んでいいけどっていう(笑)

有川 郁とかめちゃくちゃに見えるんだけど、そこは守ってくれます。あとは、書いていてなじむ速度がキャラクターによって違うんですよね。例えば郁なんかは、最初から開けっぴろげで全部を見せてくれるんだけど、手塚とか柴崎はなかなか見せてくれない。書き進めて巻数が進んでいくと、ちょっとくだけて、「実は僕にはお兄さんが居て」って言い出す(笑)。

多田 それも面白いんですよね。巻数が進むごとに、キャラクターの新たな設定や情報がどんどん出てくる。

有川 実際に人と会うときも同じことだと思うんですよね。「初めまして、阿部丈二さん。初めまして、多田直人さん」って、最初はそこで終わるじゃないですか。でも仲良くなって話をしていくと、実は僕の家族はこんな感じで、お母さんはこういう人で、兄弟がいてとか、お互いちょっとずつ情報を交換できるようになる。多分そういうことを私は毎回、キャラクターといっしょにやってるんだと思うんです。

阿部 僕、思うんですけど、もし演劇でシリーズものをやったら、回が進んでいくと、役者はだんだんフラットに演じられるようになるのかなって。そうなると先生のカメラの動かし方も、シリーズを追うごとにどんどん変わってくのかなって思うんですよね。

有川 うん、それはほんとに、今言ってくれた通りで、今回、映画にもなっているんですけど、郁が結局最後にひとりで目的地に向かうことになるじゃないですか。あれって、多分、一巻目の段階では絶対無理なことだったと思うんです。でも、ここまで経験を重ねて来たら、「ひとりで行けるよね、君は」って思えるようになる。私もキャラクターを信頼してその展開にキャラクターを送り出せる。
......最後ほんと、こうなると思ってなかったんです(笑)。普通、ありえないですよね、ヒーローが途中で脱落するって(笑)。

阿部 でも久しぶりにシリーズものを読ませて頂いて、シリーズ物独特のラストの寂しさを久々に体験できました。時間かけて読んできて、追ってきたキャラクターとここでお別れなのかもしれないっていう、あの感じ。それを久しぶりに「図書館戦争」で味わいましたね。しかも、登場人物が基本的に変わらないし、メインの人物が最後まで引っ張っていく。だからすごくシリーズものの連ドラに近い楽しみ方が出来ました。

多田 舞台は何十ステージも同じお芝居をやるわけじゃないですか。体使って毎日やらなきゃいけないから、「早く終わんねえかな」「早く離れたいな」って思うときもなきにしもあらずなんですけど、でも終わってみて、あらためて、「あ、この役はこうだったんだなって」はじめて思ったり......、楽日になっていくときの役とのお別れ感というか、この役を中心に生活がまわってたんだなってあらためて実感することもあるんです。

有川 今話に出た、キャラクターと最後別れるときの感覚は、稲嶺が勇退するときの感覚にちょっと似ていると思います。私は監督の立場なのでキャラクターにはなれないですけど、「あ、ここでおりちゃうんだ」、「この人が抜けた後書いていけるのかしら」という感じ。

阿部 稲嶺って作品において無意識に存在する〝軸″だったじゃないですか。僕もやっぱり稲嶺がすごく好きだし、とても印象に残っていて。そんなにたくさん登場するわけじゃないじゃないですか。それなのにものすごい、喪失感を感じたんですよね。

多田 なんかこの人が居るから大丈夫だろうという安心感みたいなのがあって読んでいました。

有川 児玉清さんに「モデルでした」って最後に言えて本当によかったなって。自分の書いてるキャラクターに支えてもらっているって、すごく不思議な感覚でした。

阿部 〝いっしょに進んでる″っていう感じなんですかね?

有川 世界観を決めようとするときや図書隊として何かを決めるときに、先ず稲嶺にお伺いを立てるっていう感じですよね。稲嶺が大丈夫って言ったらやれる、っていう感覚です。

多田 台詞っていうのは、登場人物が勝手にしゃべるっていうものなんですか?「正論は正しい」って手塚が言われちゃうところが僕好きなんですけど、ああいう台詞がすっと出てきちゃうのがすごいなぁと思っていて。

有川 ......どうやって書いてんだろう?(笑)でもあれは、堂上に任せていて堂上が出してきたんです。あれは私が言わせようとしたんじゃなくて、手塚が凝り固まっちゃったところに堂上を置いとくとああいうセリフが出てくるんですね。

阿部 先生の作品って、ひとつの台詞でその前までの展開や空気感を一気に変える、そういう台詞が多いと思うんです。個人的には、それがすごい特徴だと思うんですよね。

多田 単純に僕は役者として、台詞として言ってみたいなっていうのがありましたね。自分だったらどう言おうかなみたいな。こんなにかっこよくできるかなって。

――面白いですね、役者ならではの読み方ですね。

多田 僕は結構そうですね。特に「」(かぎかっこ)がついている文章は。僕は、自分だったら、これがお芝居だったら、舞台だったら、っていうのをなんとなく頭のなかで想像しちゃう。

――想像しながら読まれてるっていうことでは、普通の人に比べると、役者さんの読み方って、より想像の確度が高いと思いますね。

阿部 でも、変に置き換えずに読まれてる読者さんとか、ちょっと羨ましくもありますよね。

多田 そうね、没入の一歩手前で止まってる自分がいて。本を読んでる間も、どうしても俯瞰してる自分が抜けない。だからそういうのがなく、ぐっとこの世界に自分が入りこんでるような読みかたが出来る人が羨ましいですね。

有川 入れないっていうのは、役者さんの生理で?

多田 そうですね。本だけじゃないんですけど、日常生活の中で今自分ってどう見えてるのかな?って、俯瞰的っていうのかな、そういう視点が常に強くて。これは個人の差かもしれないんですけど、冷静でいちゃうタイプなんですよね。だから映画を見て、感動して涙流したりもするんですけど、でもどっかもう一人の自分がっていうか......これは職業病ですね。

阿部 タイプで言ったら直人はそうだよね。

――役者さんは多かれ少なかれ、そういう部分があるものですか?

阿部 時と場合にもよりますよね。僕は結構一つのキャラクターに没入しちゃうところがあるんです。そうなると、そのキャラクターを客観的に見られなくなっちゃうんですよね。そうじゃなくて、他者としてそのキャラクターを客観的に見ることもしたかったな、って思う時もありますね。

多田 バランスなんですよね、要は。

――有川さんは自分がお書きになったキャラクターに入り込んでしまうことはありますか?

有川 基本的には、ぎりっぎり近くまで寄ります。ぎりっぎり近くまでカメラは寄るんだけど、その中には入らないというか入れない。むしろ入っちゃダメなんだと思うんです。阿部さんが言うように、誰かひとりに入りこんだら、バランスが崩れちゃって、作品が成立しなくなってしまう。たぶんそのキャラクターだけが可愛くなっちゃうんです。これは、前に南果歩さんと対談したときにも言ったんですけど、もし誰か一人の中に入っちゃったら、そのキャラクターがいちばん大事になっちゃうから、いろんなキャラクターを同時に愛するっていうことはたぶんできない。一人を愛しちゃダメなので、近くまでは行くけど、中には入らないっていうポジションをすべてのキャラクターに対してとらないといけない。だから脇役であっても「このシーンを書いてるこのときだけは君だけのカメラだよ」っていうような。

阿部 でもそれ絶対大事ですよね、だって何かの役に入ってしまったり、特別なキャラクターをつくってしまうと、そのキャラクターを書くときだけ感覚が違ってしまうような気がするんですよね。バランスや世界観、空気感が変わってしまいますもんね。

有川 うん、だからカメラとしてなんですよね。「今この瞬間はあなただけのカメラだよ」っていう。「今この瞬間は君のためだけに書いてるよ」って。

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誰を演じたい?

有川 例えば「図書館戦争」のキャラクターの中で、誰を演じたいですか?

多田 僕は手塚ですね。身長がちょっと足りないかな?って思いますけど(笑)。

阿部 大丈夫?結構身体能力高いよ(笑)

――なんで手塚なんですか?

多田 主人公を支える人たちに僕はすごく魅力を感じちゃうタイプなんですよね。その人たちにもちゃんとドラマがいっぱいあるし。見守りたいタイプなんで(笑)。それとともに手塚なら自分も成長していくと思うし。

有川 阿部さんは誰を演じたい?

阿部 僕......じゃあ、直人が手塚やるならお兄さんをやろうかな(笑)。
 ありえないことですけど、ここまでエンターテインメントの要素とかラブコメの要素とかが入ってるんだったら、柴崎とかもいいですよね。彼女の内面を知ってみたい、ということで。まあでも、直人が手塚で僕が柴崎だと大変なことになっちゃうから(笑)。 

多田 確かにね。

阿部 たまたま客演した先生の「もう一つのシアター!」で共演した沢城みゆきさんがやってるんですよね。だから劇場版が楽しみですね。どんな感じの柴崎が出てくるのか。僕多分、感心する一方だと思うんですけど。「なるほどね」って(笑)。

――どんどん観たくなってきましたね(笑)。

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小説と演劇

――小説と演劇って、通じる部分がありますよね。

有川 演劇ってあまり縁がなくて観に行ったことなかったんですけど、実際観に行ってみたら、鑑賞する適性がものすごくあったなって。何回でも観られる。何回観ても飽きない。だから「飽きませんか?」って成井さんに呆れられちゃうくらいキャラメルさんのお芝居は今観てますね。でも、「大丈夫、毎回違うから」(笑)。ある担当さんが「有川さんが演劇の盛んな地域の出身でなくて良かった」って言ってくださって。私、田舎の出身なのであまり演劇が身近なエンターテインメントじゃなかったんですけど、確かに、演劇が身近にある環境だったら自分でもどっちを目指してたかわかんないなっていうのを、特にキャラメルさんを観るようになって思いますね。

阿部 もう勝手なイメージですけど、演劇部で作演とかしてて、コンクールで結構燃えてる学生時代を送ってそうですよね。劇作家からの小説家、とかね、そういう流れもあったかなって思いますよね。

――でもやっぱり最後は小説なんですね。

阿部 最終的には小説に行ってるはずなんで、先生は。お芝居を知ることがない人生ってあると思うんですけど、小説を知ることのない人生ってないですし、戯曲を書いてる以上小説を知らないってことはないでしょうし、演劇部部長はぜったい小説家を目指しただろうなと思います(笑)。

有川  この年になると「ちょっと違う進路も選べたかもね」と思うことがあるよね。例えば自分のことをバリバリ文系だと思ってましたけど、今にして思えば生物学、博物学系に行ってもよかったんじゃないかって(笑)。

多田 ものすっごい好奇心が旺盛なんでしょうね。

阿部 先生の作品って、いわゆる文系って感じもしないですよね。

多田 メカが出てくるし。

阿部 でも植物が好きだったりとか、そういうイメージは文系ぽいなというか。

有川 植物も分類したら知識的には理系のほうなんですよね。

阿部 あ、そうですね。でも僕、動物めっちゃ好きなんですけど、でも全然理系じゃないなー(笑)。 

――多田さんは文系的ですか?

多田 どちらかというと......そうですね(笑)。

阿部 体育会系でないことは確かだよね(笑)。

多田 芸術系かな?

阿部 それ良いねー!

多田 ガンダムとか大好きなんで。ガンダム好きだったら、内部のスラスターはどうなってるんだろうっていうよりかは、フォルムがすごく好きなんです。モビルスーツとか。もちろん話も好きなんですけど。やっぱそういう外っつらというか、カッコ良さに惹かれるんですよね。

阿部 僕にとっての動物の可愛さといっしょかな(笑)。

多田 どう育てたいとか重要じゃなくて、可愛い、かっこいいとか。

阿部 ガンダムの話になったんで言いますが、僕もガンダムすごい好きで。

有川 男の子はみんな好きよねー(笑)。

阿部 ガンダムが好きだったら、「図書館戦争」は、はまる要素がすごいあると思います。掲げる正義が1つじゃないところとか。きっとこれ、メディア良化法のほうのスピンオフというか、そのなかにもその信念を持って闘ってる人の物語とかあると思うんですよ。そういう感じってすごくガンダムの世界と似てない?

多田 確かに。

有川 私はやっぱり作家なので、検閲側の正義はぜったい書きたくないと思っているんです。他にもいろいろ理由はありますけど、まず「検閲に正義がある」っていう言い分はぜったいに書きたくなかった。けど、だからといって、図書隊が正義だとも書きたくなかった。図書隊は図書隊の信じるところに従って闘ってるだけ。私も信じるところがそっち側なだけ。だから、検閲に正義を見出せる人が書けば違う物語が出てくるでしょうね。

阿部 いろんなキャラクターの台詞もそうですけど、市民の声っていうのも作品なかには出てくるじゃないですか。良化隊のほうの意見も。僕は、最終的には、迷わず検閲は良くないって言いますけど、でも、その結論ありきのなかでも、この考えは分かるって言うのはあるじゃないですか。そこがさっきのガンダムと通じるなと思いますね。いろんな想いとか、人生って何かのタイミングでどうなるか分からないじゃないですか。そういうことが向こう側にもありそうだなって僕は感じました。だから描写のなかで撃たれて倒れた良化隊員はどんな人なのかなって頭によぎるし、興味をもっちゃうんですよね。

有川 良化委員会側の正義はぜったい書きたくないって思ってたんですけど、でも、掲げる旗が違う、だから分かり合えないってところは書きたかった。だからちょっと良化委員会側にふったエピソードを、郁にほら、傘を渡す良化隊の隊員のシーン......あそこにちょっと込めたんです。

阿部 すごく分かります。

有川 あのシーンは入れられてよかったです。

――実際に逃走ルートを歩かれたそうですね。

有川 ええ、しかも春の嵐の中。ビニール傘が途中で飛んだので、ほんとに交番に駆け込んで雨宿りをさせてもらったり......そういう経験が結果として臨場感に繋がったかなって(笑)。あの嵐の日に歩いておいてよかったなって思います。

多田 自分の感じたものから出る引き出しって全然違いますもんね。

有川 多分、地図だけ見て書くことってできると思うんですよね、作家だし想像力があるから。でも現場を見ているか見てないかでは全然違うと思う。例えばインタビューさせてもらったりして、一回でも話したことがあるかどうかで書くものが変わってくる。

阿部 先生は好奇心が旺盛だから、それが全部血となり肉となり、吸収するんでしょうね。『阪急電車』のスポットを先日先生と観光旅行的にめぐってみて、楽しかったのと同時に、「これを見てあのドラマが生まれていったんだ」「ここからドラマが展開したんだ」って感動しましたし、やっぱり先生はすごいなと思いました。

多田 そうだね、見るだけじゃなくそこから想像力をもって。

阿部 僕なんかは、『阪急電車』を読んだから有名人に会うみたいにそのスポットに注目出来たんだよね。でも、何もなしに見たらそういうのってぜったいないから。ああいうところからドラマ、ストーリーが生まれてくるのってすごいよね。

多田 でもさ、自分ですごく悲しいこととかさ、しんどいときとか、サラリーマンだったら「どうしよう」って思うんだろうけど、役者やってるからさ、「これどっかで使えるかな」って(笑)。

有川 分かる分かる(笑)作家も同じです。

多田 不謹慎かもしれないですけど、親戚が亡くなったときに、すごい悲しんではいるんですけど、「どっかで何かこの感覚、役に立つかもなー」って。そういう役者の性を逆に利用して、前向きに持っていくとかね。

有川 それはすごく分かります。

多田 何かこの経験を、って。

有川 転んでもただではおきない、すごい嫌なことがあっても、「いつか元をとる!」みたいな(笑)。

多田 コンビニの店員とかで腹が立っても、「いつかお前ぜったい登場させてやるからな」って(笑)。

有川 例えば今回『三匹のおっさんふたたび』っていう新刊が出て、そこにゴミの不法投棄をする老人が出てくるんですけど、そうしたエピソードも、編集さんから聞いた話が元だったりします。「いやー、近所の駐車場に黙ってゴミを捨ててった年寄りが居たんですよー。ああいうのすっごい腹が立つんですよねー」ってずーっと聞かされて。これ使おうって(笑)。 ほんとにまわりまわってどう糧になるか分からない職業ですよね。

――小説家と役者、結構共通点があるものなんですね。お話が盛り上がった有川さんと阿部さん・多田さんですが、この冬、キャラメルボックスのクリスマスツアーでコラボレーションされるとのこと。そちらも楽しみです。

有川・阿部・多田 はい、ご期待ください!

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「図書館戦争」から最後は、職業としての小説家と俳優の共通点まで話が弾んだ鼎談のスピンオフ対談、有川浩さんと阿部丈二さんの演劇ユニット「スカイロケット」のインタビューは、映画「図書館戦争 革命のつばさ」公式ガイドブック「カドカワキャラクターズノベル アクト2」に掲載しています。

そちらもあわせてご覧ください。