『かくして少年は迷宮を駆ける2 金色の勇者と死霊の軍勢』読者アンケート
『かくして少年は迷宮を駆ける2 金色の勇者と死霊の軍勢』読者アンケート 特典ページ

アンケートにご協力いただきありがとうございました!

『かくして少年は迷宮を駆ける2 金色の勇者と死霊の軍勢』

あかのまに先生こぼれ話

あとがき

 お久しぶりでございます、あかのまにです。
 『かくして少年は迷宮を駆ける』二巻でございます。
 まずは本作を購入して読んでいただいた皆様に感謝申し上げます。
 そして、この二巻を出すにあたって、協力していただけた皆様に感謝申し上げます。

 一巻が出るまでの間、様々なことが起こりましたが、それらを乗り越えてこうして二巻を刊行することができたのは、間違いなく皆様のおかげでございます。
 その応援にどこまで応えることができるかはわかりませんが、全力で頑張っていこうと思っております。

 さて、今巻の話を少しだけ。
 二巻は部分は一巻では敵対(?)の立場となっていたディズがメインの物語でございました。
 作者視点の話になると、彼女はこの上なく扱いが難しい少女であります。
 敵対者であり、協力者であり、隔絶者であります。
 そんな彼女を中心にして主人公であるウルと一緒に動かすことが非常に困難極まるのは、なんとなく分かっていただけていると思います。
 こんな面倒くさいキャラクターをメインに据えたのはどこの阿呆でしょうか?
 私でした。
 許しません。
 まあ、銀色の方は銀色の方で大変扱いが難しいヒロインではあるのですが、それにしたって彼女は難しいキャラだと自分で産みだした子ながらも思うばかりです。
 ですが、WEB版と違い、二巻という区切りで彼女を立たせる必要がある。そう決意し試行錯誤を続けました。
 おかげさまで本当にありとあらゆる部分で手を加えに加えまくり、大変苦心をして完成したのがこちらの第二巻でございます。
 苦労もありましたが、それに見合うエンターテイメントが込められたと思っております。
 もしこれから読むぞ! という方がいらっしゃいましたら、どうかお楽しみください。

 また本作と同月に拙作『怠惰の魔女スピーシィ』の一巻がMFブックスより同時刊行となります。
 自分なりに「追放もの」を咀嚼して作ってみた作品です。
 クセありの魔女スピーシィが魔剣の少年騎士クロと共にあれやこれやするお話となっております。
 宣伝のようになってしまい申し訳ないのですが、もしよければこちらもお手に取っていただけますと幸いです。

 最後に、1巻同様にアンケートに答えていただき、ここまで読んでくださった読者の皆様のために、また特別SSショートストーリーを執筆させていただきました。
 よければお楽しみくださいませ。
 ではでは~。


特別SS『カッコイイおうまさん』

 ディズの愛馬。巨大な黒馬こくば、ダールは退屈していた。
 出発の準備がはじまって、荷物の確認やら何やらをしているが、少し時間がかかっている。
 理由は分かっている。
 今回は主とその従者だけではなく、他の連中も一緒に馬車に乗り込むからだ。そのため、いつもよりも少し時間がかかっている。
 だからヒマだった。

 相方のスールは白銀の方に懐いて楽しそうだが、自分はそんなふうに人なつっこくする気にもならない。
 しばらくの間は、灰色の方をからかったりして遊んだが、それも飽きた。
 故に、今は日向ひなたでぼおっとしていた。
 そのまま昼寝でもしようかとも思っていた。

「おうまさん!」

 だが、そうしていると、なにやら小さいのがこちらを指さした。
 別の場所へと移動しようとしているのだろう。
 外套がいとうを被った小さいのが、こちらを指さして嬉しそうにトテトテと近づいてくる。
 面倒めんどうだなとは思うが、子供相手に脚を振り回すような真似はしない。
 だが、触ってきたらおどすくらいはするつもりだった。
 他の仲間達に同じ事をして、り殺されても困るからだ。
 しかし子供はそれ以上近づかなかった。

「カッコイイ!」

 そのかわり、まん丸な目をキラキラさせながらそう賞賛した。
 当然だ。
 とダールが鼻を鳴らしていると、その親が慌ててやってきた。

「こらこら、いけないよ!」

 そう言ってディズの方に深々と頭を下げて、そのまま立ち去っていく。
 小さいのはずっとこちらに嬉しそうに手を振っていた。

「バイバイ、おうまさん!」

 ずっと手を振り続けるので、仕方なしに一鳴きしてやると、小さいのは嬉しそうに笑った。
 自分の声を聞いたスールが、どうしたのかしら? と言うようにこちらを見たが、ダールはそれを無視して今度こそひなたぼっこに専念した。

         ◆◆◆

 その親子は【名無し】であり、今は衛星都市国アルトから別の都市国に移動する最中だった。
 今回の都市滞在権が買えない程、貧困ではなかった。
 だが、近隣の大罪都市国グリードへの運搬の仕事で、結構な報酬がもらえるので請け負った。
 グリードには今、新しい我が子を身ごもっている妻がいる。
 この稼ぎなら、いいものを食べさせて、しばらくはゆっくりさせられるだけの蓄えが得られるはずだと思っていた。
 正直、油断があった。
 グリードとアルトへの行き来には慣れていたし、魔物からの逃れ方も分かっていたつもりだった。
 だから、アルトから出てすぐに遭遇した【影犬ロウドッグ】相手も、上手く回避できると思っていた。
 それが思った以上の数の群れであったと気付いたときには、すでに遅かった。

『OOOOOOOOOOONNN!!』
「くっそ……!!」

 誘導されるように入ってしまった雑木林のあちこちから、雄叫おたけびのような声が響き渡る。
 影犬ロウドッグたちに囲まれてしまっている。
 元の道に戻ろうにも、最早自分がどこにいるのかも分からない。
 魔物除けの閃光玉なども尽きてしまった。
 それでも彼は必死に駆け回り、ついに木の根に脚をひっかけて転んでしまった。

「んきゃ!?」
「しまっ!?」

 その拍子ひょうしに娘を手放してしまい、彼女は投げ出された。
 そして、それを待っていたと言わんばかりに、無数の影犬ロウドッグたちが一斉いっせいに飛び出してきた。

めろぉ!」

 死に物狂いで娘に覆い被さる。
 たとえ自分が娘の盾になろうと、連中が自分を食い殺し、娘に牙を突き立てる未来を想像し、絶望した。
 だが不思議と、いつまで経っても自分に牙が突き立てられる事はなかった。

「は!?」

 かわりに響いたのは、凄まじい嘶き声・・・
 彼が顔を上げて目にしたのは、自分達に襲いかかろうとしていた影犬ロウドッグたちが、何やら真っ黒な風によって吹き飛ばされる光景だった。
 何が起きているのか、まったく分からなかった。
 そして娘が何かに気付いたのか、嬉しそうな声をあげた。

「あ、おうまさん!」
「へ!?」

 なんのこっちゃと思ってよく見ると、影犬ロウドッグたちを吹き飛ばし、蹴り殺しているのは風ではない。
 でこぼこの森の中を自由に駆け回る巨大で真っ黒な馬だった。

「な、何故なぜ……!?」

 確か、衛星都市国アルトを出るときに見かけた馬だ。
 高価な馬車の側にいたから、きっと神官様か商人のもので、うっかり傷でもつけたら大変だと思っていたのだが、その馬が何故か馬車もなしに、ここにやってきていた。

 そうして瞬く間に影犬ロウドッグたちを蹴散らしてしまった。
 そして、そのまま倒れている自分たちを見下ろすと、なにやら「まったく……」とでも言いたげな様子で鼻を鳴らして、くるりと振り返って進みはじめた。
 どうするべきか分からなかったが、娘が自分の腕を引いた。

「ついていこ」
「あ、ああ」

 そうして馬に先導されていくと、雑木林を抜け再び元の道に戻っていた。
 周囲にはもう魔物の姿もない。
 よかったと、深々と安堵あんどのため息を吐くと、黒馬の方はアルトの方へと戻っていくところだった。

「あんがとー、おうまさーん!」
「ええと、その……ありがとう。馬のかた

 娘と共にお礼を告げると、黒馬はその長い尾を一振りして、あとはこちらに振り返ることもなく去って行った。

「かっこよかったねえ!」
「……そうだな。」

 なんというか、本当に娘の言うとおりカッコイイ馬だった。

         ◆◆◆

『おーおー、本当に戻ってきたのう。すんごい勢いで飛び出したが、何しにいったんじゃ?』
「ダール、耳が良いからね。何かのトラブルを聞きつけたのかも」
「全くビックリさせんなよ……ってえ!? 噛むなおい!」
「ダール様とウル様は、仲が良いですね」
《ほんとうになー》

 一仕事を終えたダールは再び、出発までの間ひなたぼっこを再開した。
 何かを察したのか、スールが嬉しそうに隣に来て同じくひなたぼっこをしはじめたが、ダールは無視をきめこんだ。

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