

2018年10月、Twitterに彗星のごとく現れたもちぎさん。
ゲイ風俗である売り専業界での活動を中心に、様々な事柄を漫画やテキストでツイートし、瞬く間にフォロワー55万人(2020年5月現在)を超え、既にコミックエッセイを2シリーズ3冊、エッセイ1作を刊行する人気作家。
そんな彼に小説を書いてほしいとお声がけしたのは2019年春のことだった。
当時、ツイッターのTLにはもちぎさんの漫画ツイートとテキストのみのツイートが並び、前者の方が広く拡散して高い認知を得ていた。
言うまでもなくTwitterは視覚優位なメディアで、文字よりも圧倒的に情報量の多い漫画が好まれるのは当たり前のことで、もちぎさんと言えばあの白くて丸いきゅーとなもちぎさん(?)に代表される漫画こそが、彼のアイコンだったはずだ。
だから、彼に仕事をご相談するとしたら漫画が自然な流れのはずなのに、迷わず依頼したのは小説だった。
コミックエッセイではなく、小説。
なぜだろう。
もちろん、自分が小説の編集者であったことは理由の一つだけれど、何よりも、彼のテキストには強さがあった。
濃い色・強烈な匂い・圧倒的な密度・唯一無二性。
そんな文章で織り上げられた小説が、どうしても読んでみたくなったのだ。
そうして、幾度かの打ち合わせ・企画検討を経て書き上がったのは青春小説。
ある日特殊な能力に目覚めた平凡な少年少女たちが、殺人未遂、交通大事故、器物破損、ストーカー撃退、完全犯罪――そして『大人との対話』と『自分を見つめる時間』を通してほんの少し成長する。等身大の物語。寓話的な雰囲気を持ちつつ、誰もが想像しやすい欲望を叶える独善的な能力とそれを扱う小市民たちの、連作短編であり一つの物語。
とても素晴らしかった。最高に面白かった。
小説は、自分以外の誰かを知るためのものという側面が、きっとあるのだと思うけれど、もちぎさんの描いた“彼ら”の意志や価値観を知り、人生を追っていく時間が、たまらなく楽しかった。
しかしそれは今これから本として出版される『繋渡り』ではない。
途中まではその青春小説の刊行準備を進めていたのだが、改稿に伴う相談をしていくうちに、もちぎさんの中で、自らの初小説として刊行すべきものという輪郭がより明確に定まっていったため、別の企画を立ち上げることとなった。
それがこの『繋渡り』。
もちぎさんのこれまでの人生、多くの方々との関係性の中で築いてきた自らという素材を削り、煮詰め、端整に組み上げた、彼の分身のような本。
爽やかで心地良く教訓的で、読後に万人が幸せになれる御話ではなく、本を開いた瞬間に読み手の心を鷲掴みし、力尽くでページをめくらせ続け、容赦なく胸をえぐり消えない痕を残すような鋭利な物語。
苛烈で激烈でもちぎさんにしか、そんな彼にも一生涯で一度しか書けない初小説。
どうか魂に刻んでください。