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『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~ 19』
理不尽な孫の手先生書き下ろしこぼれ話
ご無沙汰しております。理不尽な孫の手です。
無職転生も十九巻になります。
あと一巻で二十巻でございます。これだけ書かせていただけているのも、皆様のお陰です、本当にありがとうございます。
さて、今回の十九巻は、ザノバの話です。
ザノバがパックスに呼び出されて帰郷し、そこで自分にとっての親族とは何かとか、そういったことを見つめ直す話になります。
WEB版では、あまり人気のなかったエピソードですね。
決して愉快な話ではないけど、必要な話。
そういったエピソードを書かなければならないのは、中々に大変です。
面白くない話でも、何かしら工夫をして面白いように見せかけるのが、作者としての力量の見せ所なのかもしれませんが……。
この話をWEBで書いてから、もう四年近く経ってからの再編になりますが、結局この話をとてつもなく面白くみせる手立てはみつかりませんでした。いらない部分を消したり、気になった部分を修正したりと、細かい部分は変更してはいるのですが……。
もちろん、今回の話を、単純に面白おかしくするのは可能だと思います。
あのキャラに過去を深く反省させ、過去の面影を感じさせないような、底抜けに良いキャラにして、ルーデウスと二人で手と手を取って、迫り来る敵を倒してハッピーエンド。
誰も不幸にならないし、主人公がまた一つ良いことをしたと、読者も気分よく読み終えることができる。そういう物語に変えることは、きっと可能です。
エンターテインメントの常識で考えれば、むしろそうするべきなのでしょう。
でも無職転生のテーマの一つに『人生』というものがあります。
人生には、ただただ辛い出来事もあるし、ままならない事もあるし、それらを受け入れていかないといけない時もある。
人生というテーマで小説を書こうと思ったのなら、今回のような話は、避けて通れないのではないかなと思います。
さて、今回は『キャラクターの変化』について語っていこうかなと思います。
無職転生において私が気を付けていた点の一つに『キャラクターをキャラクターとして存在させない』というものがあります。
パックスというのは、嫌な奴です。
『王子』という、自分が努力して手にしたわけでもない立場で好き放題にやっていて、うまくいかなくなると癇癪をおこす。そんなキャラクターです。
『キャラクターをキャラクターとして存在させる』ということは、そこに理由をつけないのと同意になります。パックスは嫌な奴だから、生まれたときから理由もなく嫌な奴だし、嫌なことをするし、傲慢な態度をする、という感じです。
『キャラクターをキャラクターとして存在させない』というのはつまり、そこに理由をつけることになります。
生まれたときは誰もが嫌な奴じゃなかった。傲慢な奴など存在していなかった。
パックスも、きっと生まれてから無職転生に出てくるまでの間の人生があり、その中で何年もかけて、傲慢で嫌な奴になっていった。そこには理由がある。
つまり、何年もかけて変化してきた結果、今に至っているわけです。
そして、何年もかけて変化してきたのなら、また何年もかければ変化していく。
作中で何年か経過すれば、当然ながらキャラクターも変化する。
パックスもまた、理由があるから傲慢な態度を改める余地がある。
そういった考え方です。
だからルーデウスも長い年月をかけて変化してきましたし、他のキャラクターも変化していくわけです。
ですが、どれだけ努力し、変化をしても、変わらないものや、手に入らないものもあります。
パックスが何を求めていたのかというのは、あえて具体的な言葉で書いていませんが、それは人生において人が求めるものを、たった一言か二言で表現できるものではないと思っているからです。
そうした、言葉で表せない何かが、どれだけ努力しても手に入らない。
手に入らないということを受け入れることができるかどうかで、その後の人生が大きく変わってきたりするのだとは思いますが、パックスはそれに耐えられませんでした。
そして、そんな彼の人生に影響を与えてきた人々が、苦悩します。
自分があの時ああしたから、こうしたから、ああすれば、こうすれば。私は彼に、彼の望むものを与えてやることができたのに……。
今まで取るに足らない小さな存在だと思っていた人物が、大きな衝撃と影響を与えるわけです。
結局、取るに足らない小さな存在なんておらず、誰もが必死に生きていて、誰かに影響を与える存在になりうるわけです。
少し話がとっちらかってしまいましたが、今回の話では、そういった変化や、ままならない部分をテーマとして書いております。
少し暗い話ではありますし、愉快な話というわけでもありませんが、何かしら感じ取れる部分があっていただけたなら、幸いです。
では、次巻もお楽しみください。
©理不尽な孫の手/KADOKAWA