作品ガイド

〈ダークタワー〉シリーズとは

 ホラーは言うまでもなく、SF、ファンタジー、ミステリー、ラヴ・ロマンス、ウエスタン、冒険小説など、様々なジャンルを横断する〈ダークタワー〉シリーズは、キングの小説作法のショー・ケースであり、同時にキング・ワールドの中枢を占める作品なのです。つまり、かれの他の作品は、この超大作〈ダークタワー〉から派生したものにすぎないということ。言い換えれば、最終的に他のキング作品のおおかたは、〈ダークタワー〉の物語世界に収束されるということです。このことは、シリーズ第Ⅳ巻『魔道師と水晶球』の「著者あとがき」でつぎのように語っていることからも明らかです。

「これまでにわたしは想像力の太陽系を満たすに足る数々の長篇と短篇を書いてきたが、ローランドの物語は我が木星である――それは他の惑星を矮小化し(少なくとも、わたしの見るところでは)、奇怪な大気、狂乱の風景、そして強烈な引力を備えた場所なのだ。他の惑星を矮小化する? 思うに、実際には、それ以上のことがその木星にはある。わたしは最近になって理解し始めたのだが、実際のところ、ローランドの世界(あるいは、複数の世界)はわたしが創造した他の世界すべてを内包している。〈中間世界〉には、ランドル・フラッグやラルフ・ロバーツ、『ドラゴンの眼』の流浪の少年たち、さらには『呪われた町』の咎められるべきキャラハン神父のための場所がある。(中略)すべてはこの木星に収斂していくように思える。それも当然のこと。最初にローランドの狙撃手としての青く澄んだ陰鬱な眼差しの下に夢見られた〈中間世界〉ありき、なのだから」

 といったぐあいに、本シリーズはキングのまぎれもないライフワークなのです。ここで、この超大作シリーズの物語世界を簡単に記しておきましょう。

 物語の主人公は、最後の拳銃使い(ガンスリンガー)と呼ばれるローランド・デスチェイン。ガンスリンガーとは、われわれの世界で言えば中世の騎士のようなもの。そう、この物語は現実世界ではなく、異次元世界で繰り広げられます。

 シリーズの前半では、主として〈中間世界(ミツド・ワールド)〉が舞台となります。その異世界は〈男爵領〉と呼ばれる一種の都市国家が集まってできており、われわれの現実世界ととてもよく似ています。実際のところ、アメリカの西部開拓時代を想起させます。ただし、過去には超ハイテクノロジーの支配していた時代もあったようで、その遺物がいたるところに見られます。ローランドが生きている社会が前近代的文明に逆戻りし、風景が荒廃しているのは、各地での内乱、核戦争の頻発、および時間空間の“変転”のためのようです。

 そのような破滅後の終末世界にあって、ガンスリンガーことローランドは〈暗黒の塔〉を探して流浪の旅をしています。中世の騎士が聖杯を探索するようなものです。

 ただし、ローランドの場合、事は重大です。というのも、〈暗黒の塔〉とは、すべての時間と空間、そして全宇宙と次元(この中にはわれわれの世界も含まれる)を支配し、調和と均衡を保っている、一種の車輪の中心部(ハブ)にほかならないからです。いまや、そのハブ=塔が何者かの悪意によって崩壊の危機にあるのです。

 かくてローランドは悪の根源を突き止めて倒し、〈暗黒の塔〉を修復して保全するために、あてどのない探索行をしているというわけです。

〈暗黒の塔〉は、言ってみれば、万物の創造の拠点です。いくつもあるすべての世界がそこから誕生し、最終的にはそこに収斂していくのです。〈中間世界〉は言うまでもなく、われわれの現実世界も、そしてキングの創作した他の作品の世界も。

 というわけで、〈ダークタワー〉シリーズは、キングの他の作品と直接、ないしは間接的に関係があるのです。それはキャラクターであったり場所であったり事件であったりします。

 具体的に作品名をあげると、『シャイニング』とその続編『ドクター・スリープ』、『ザ・スタンド』、『IT』、『不眠症』、『呪われた町』、『ドラゴンの眼』、『ローズ・マダー』、『アトランティスのこころ』、『骨の袋』、『回想のビュイック8』、そしてリチャード・バックマン名義の『レギュレイターズ』やピーター・ストラウブとの合作『タリスマン』と『ブラック・ハウス』などなど。もちろん、中篇や短篇にもありますし、そもそも他の長篇でも、奇怪かつ邪悪な事件の発端の原因は、〈暗黒の塔〉が崩壊し始め、時間空間が“変転”したためなのです。

 十九世紀フランスの文豪バルザックは自作のすべてを〈人間喜劇〉の名のもとにひとつの作品と見なしていましたし、そのひそみにならったゾラも〈ルーゴン=マッカール叢書〉として自分の作品をひとまとめに考えていました。その伝でいくと、キングの全作品は、さしずめ〈ダークタワー〉サイクルと言っても過言ではないのです。その中心をなすのが本シリーズです。まるで万物の創造の根源に屹立する〈暗黒の塔〉のように、この超大作はキング・ワールドの中心にそびえ立っているのです。
(文・風間賢二/『ダークタワーⅠ ガンスリンガー』訳者あとがきより抜粋し、加筆しました)

著者・訳者

  • スティーヴン・キング(Stephen King)

    1947年メイン州生まれ。高校教師やクリーニング工場でのアルバイトのかたわら、執筆を続ける。
    74年に『キャリー』で長編デビューし、好評を博した。その後、『呪われた町』『シャイニング』など、次々とベストセラーを叩き出し、「モダン・ホラーの帝王」と呼ばれる。
    代表作に『IT』『ミザリー』『グリーン・マイル』などがある。「ダークタワー」シリーズは、これまでのキング作品の登場人物が縦断して登場したり、事件が重なったりする、著者の集大成といえる大作である。
    全米図書協会特別功労賞、O・ヘンリー賞、世界幻想文学大賞、ブラム・ストーカー賞など受賞多数。

  • 風間 賢二

    1953年東京生まれ。幻想文学研究家・翻訳家。
    『ホラー小説大全』で第51回日本推理作家協会評論部門賞受賞。
    主な著作に『スティーヴン・キング 恐怖の愉しみ』『ダンスする文学』『ジャンク・フィクション・ワールド』『NHKカルチャーラジオ 文学の世界 怪奇幻想ミステリーはお好き?』など。
    訳書にスティーヴン・キング『人狼の四季』、ジェフ・ニコルスン『装飾庭園殺人事件』、カレン・テイ・ヤマシタ『熱帯雨林の彼方へ』、アメリカン・コミック『ウォーキング・デッド』シリーズほか多数。