『はなとゆめ』刊行記念対談 冲方 丁×堀江貴文


渋川春海、水戸光圀に次いで冲方丁が取り上げたのは、なんと清少納言──読書家としても知られるホリエモンと、歴史小説の可能性を語り合う!


歴史小説に手を染めるやいなや、『天地明察』『光圀伝』と新作が出るたびに、その斬新な視点と、好奇心を刺激する物語で読者を魅了してきた冲方丁さん。一方、堀江貴文さんは『ネットがつながらなかったので仕方なく本を1000 冊読んで考えた』のなかで『天地明察』を絶賛。
型破りなアイディアで、世間を驚かせてきた二人の俊才が、冲方さんの最新刊『はなとゆめ』について、歴史小説の可能性について語り合った。


切り口が面白い『天地明察』

堀江 僕は『天地明察』が大好きなんですよ。

冲方 『ネットがつながらなかったので仕方なく本を1000冊読んで考えた』にも書評を書いていただきましたよね。ありがとうございます。堀江さんの、文化に対する飢餓感に、僕はすごいシンパシーを感じて。僕は子どもの頃海外にいて、中学二年生くらいまで、もう全く娯楽に触れられない人生だったので、ほんとうによく分かるんですけど、こういう感覚が通じてないなというのがずっとあったんですよ。

堀江 そのへん、僕も一緒なんですけどね。僕も田舎にいて、いまみたいにネットとかなかったんで、それこそ百科事典見るぐらいしか娯楽がなくて、周りの大人も全然そんなのに興味ない―田舎の大人って、パチンコやってるか、酒飲んでるか、スナック行ってるかみたいな人たちばっかりじゃないですか。だから情報に飢えてて、外とつながれることが至上の喜びというか。そういう思いって、いまの人たちにはないですよね、たぶんね。

冲方 ないですね。その飢餓感がいろんなことの動機になってます、っていう感覚が通じたの、正直、初めてです。

堀江 逆に言うと、僕は周りの人たちが飢餓感を覚えてないことに対して疑問だったんですよね。何でこの人たちは、この田舎で満足してるんだろうっていう。

冲方 同じコミュニティーの中でも、そういう方々はいらっしゃらなかったってことですか。

堀江 はい。僕はもう一人も出会ったことがないですね。

冲方 そういう時って、疎外感とかって抱くんですか。

堀江 もうすごい疎外感です。

冲方 ですよね(笑)。一人だけで。

堀江 自分が悪いんだと思ってました、最初は。みんな、こんなので満足してんのに、俺は何で満足できないんだろう、って。どっちかっていうとこう、自分のことをネガティブに考えてましたね。だから僕、中学校で封印したんです。

冲方 一回、自分の欲に蓋をした。

堀江 というか、内向きになったんですね。

冲方 ああ切ない、でもその気持ちわかります(笑)。だから久々に、同じ感覚をもった人に会えた、というか。本の読み方がすごい一緒だなと思ったんですよ。飢餓感がある時にそういう娯楽に触れると、自分の中で何倍にも膨らませるじゃないですか。自分の中でストーリーを構築していくというか、内容を自分の中でコピペしてないなって。むしろどんどんその本の内容を自分から改変していくとか、デカくしていくみたいに。

堀江 そう。だから、普通の時代小説ってなんか物足りないんですよね(笑)。予定調和というか。

冲方 勧善懲悪的な感じですか。

堀江 そう、勧善懲悪か人情もの。

冲方 講談の流れから生まれていますからね。もともと江戸の下町の人たちを楽しませるために発達した物語なので。

堀江 みんなそれを踏襲してるじゃないですか。だから切り口がつまんないんですよね。僕が好きなのは井上靖の『おろしや国酔夢譚』とか、田沼意次のイメージをくつがえした『青雲の梯』(高任和夫著)とか。歴史の真実をえぐっていく小説が好きなんです。テレビ番組ですけど、NHKの「タイムスクープハンター」も好きですね。

冲方 僕も見てます(笑)。『おろしや国酔夢譚』もいいですよね。

堀江 どれも切り口が面白い。冲方さんももともと時代小説を書いていたわけじゃないんですよね。

冲方 違うジャンルから出発しましたけど、もともと書きたかったんですよ。ただ、『天地明察』のような歴史ものはキャリアがないと受け入れてもらえないところがあるのと、江戸時代を包括的に描く実力を身につけるまでに時間が必要でしたね。三十代になってやっと書けたっていう感じです。

対談 冲方丁×堀江貴文

平安時代の教養力

堀江 『はなとゆめ』の主人公は清少納言。『枕草子』のメイキングなんですよね。

冲方 そうですね。『枕草子』を最初に読んだ時に、時代背景と照らし合わせると、『アンネの日記』っぽいなと思ったんですよ。アンネも清少納言も過酷な状況のなかで、美しいものだけを文章で残そうとした。とくに平安時代って、紙と筆が唯一のメディアですから、そこにすべての観念というか、思想が入り込んできている。

堀江 紙があったからそれができたっていうのは、どういうきっかけで思いつかれたんですか。

冲方 あれは事実なんです。『枕草子』の最後の文章に、「そもそも私が書き始めたのは……」って、ちらっとだけ載ってるんですよね。

堀江 『枕草子』を読んだことがないから知らなかった(笑)。あの頃、紙って貴重品だったんですね。

冲方 紙と筆が大量に手に入る人たちって、人口の中の一%とか、そういう感じだったと思いますね。彼らこそ、当時のメディアを支配してた人たちだったんです。

堀江 しかもみんなが字を読めたわけじゃない。そんななかで字を読めた教養人の知識の膨大さはすごいですよね。

冲方 いやあ、凄まじいですね。全部暗記ですからね。読み書きができても簡単には書き写せないので、読んだら覚えて、の繰り返し。これぐらい全部覚えてないとおかしいという常識が、たとえば『伊勢物語』に出て来る和歌を全部とか。しかもそれを天皇がみんなの前で試すんですよね。「この歌をそらんじてみよ」と。そういう世界なんです。

堀江 漢詩も和歌も覚えて、そこからイマジネーションを広げる。即興でパフォーマンスするみたいな感じで、上の句にひねった下の句を返すとか。驚きですよ。

冲方 本当ですね。それが当時の文化そのものなんです。僕がなぜ『枕草子』と清少納言に興味を持ったかというと、藤原道長はなぜ天皇を殺さなかったんだろうっていう疑問があったからなんですよ。中国とかヨーロッパだと、バッサバッサと王様が殺されて、王朝が切り換わっていくじゃないですか。

堀江 いわゆる革命が起きますよね、向こうは。日本の場合は、マッカーサーが来たって天皇には何もできなかった。

冲方 やっぱり文化の壁というか、力だと思うんですよ。文化力を結集することによって、天皇が殺せなくなるんだな、と。「柔らかい防壁」というんですかね。イタリアのフィレンツェは、芸術品をいっぱい集めることによって、戦争の対象にしにくくしたっていうのを聞いたことがあって。

堀江 京都もそうですよね。

冲方 そうです、まさに。『はなとゆめ』でいえば、藤原定子という中宮がその象徴的存在なんです。お父さんが亡くなって、お兄さんが島流しになる。後ろ盾がどんどんいなくなるなかで、女一人で、最高権力者の藤原道長と戦わなくてはならなかった。それができたのは文化の力ですよ。

対談 冲方丁×堀江貴文

武力より文化の力

堀江 なんか面白いなと思うのは、その宮廷が流行を作ってたわけですよね、それが地方に拡散していくというか。

冲方 はい、そうなんですよね。

堀江 それがまた固定化して、いまだに残ってたりとかするところも面白い。

冲方 日本の場合、支配を及ぼす時に、武将を派遣しないんですよね。文官を派遣するっていうか、だいたいこうステータスでもって平伏させるという。それに、島流しにしたって、これがロシアだと、シベリア送りって、要するに飢え死にしろっていうひどい刑なんですけど、日本の場合、島流しになっても、べつに死なないですからね。その後、帰って来たりするんで。

堀江 文化と断絶されることがそれだけ嫌だったっていうことですよね。

冲方 ステータスと遮断されるっていうことは、もう何者でもなくなるというか、人格が死ぬんでしょうね。

堀江 文化的に殺すっていうことなんだと思います。でも、それのおかげで地方には文化が根付くんですけれども。

冲方 確かに。

堀江 やっぱり隠岐とか行くと、ゆかりのお寺とか神社とかがあって、祀られてますよね。僕も、神社の由来とかを見たりするの、結構好きなんですよ。そこで疑問がけっこう出てくる。だから日本中にネタって隠されてて、そういうのに光を当ててほしいんですよ。学校で習う歴史は政治のことばかり。でも、文化の力があってこその政治だったと思うし、経済だって重要だった。そこにフォーカスすれば面白い小説がたくさん書けると思うのに、なぜやらないのかな。『ネットがつながらなかったので〜』、も、ひるがえせば僕、千冊読んで、こんだけしかいい本を抽出できなかったっていう。必死にこう川底の砂をさらって、やっと微量の砂金が見つかったけど、ええっ、こんだけしかないのかよ、みたいな感じなんです。だから時代小説にしたって、もっと掘り下げてほしい、という気持ちはあります。冲方さんにはどんどん新作をリリースしてもらって、刺激を与えてほしいですよね。

冲方 がんばります(笑)。堀江さんはご自分で歴史小説を書いてみたいとかは思われないんですか。

堀江 書いてみたい題材はありますけど、時間がなくて。いままで小説は二冊書いたんですけど、取材する時間がないから自分が知ってることしか書けない。

冲方 いまは歴史小説を書くにはいい時代だと思いますね。最近、ようやく歴史がタブーじゃないというか、娯楽にしても怒られない風潮が出てきたような気がします。それにいまはすごい活字文化真っ盛りですから。子どもがメールでもツイッターでも何でも日常的に文章書きますからね。人類がこんなに文章を読んで書いてた時代ってない。

堀江 ほんとうに思いますね。ネットが活字文化を殺すなんていうのは、まったくの反対で。

冲方 大ウソですよ。僕がデビューした頃から、活字離れとか言われてましたけど。

堀江 しかも、一つの文章の中にいろんなことを盛り込めるようになったというか。だから、技術力が上がってるってことですよね。今って、たぶんキュレーションの時代だと思う。いわゆるマッシュアップというか。

冲方 そうなんですよね。

堀江 音楽で言えばDJ みたいなもんで、いろんな音楽を組み合わせてこうやったらいいんじゃないの、とか。たとえばファッションの世界も109のギャル服とかって、ルイ・ヴィトンとかのコレクションをパリコレとかで見て、あ、この服可愛いけど、ここにポケットもう一個付けたらもっといいよね、とか、そういうノリで作っていくんですよ。

冲方 日本人はもともとそういうのがメチャクチャ得意ですよね。仏教と神道をマッシュアップしちゃうなんて、凄まじい能力ですよ。時代小説を書く時でも、何か真実性があると思ったところをガッとこう集めて抽出するという。

堀江 今回の作品も、『枕草子』を研究してる人だって書けないですよね。大学の研究者の人たちが、エーッて思う内容ですよ。

冲方 一応そういう人たちの研究を吸収したうえで書いているんですが、どうやったら面白くなるかを必死で考えました。僕も解説書を読むたびにイライラしたから。何を言ってるか全然わからない。これを読者に押しつけたら、たぶん一行で読んでやめるなと思って。

堀江 すごいな。

冲方 海外から帰ってきて、一番わけわかんなかったのが、古文の授業だったんです。なので、ちょっとルサンチマン的な気分もありますね。『はなとゆめ』は、自分が理解しきれなかったものに対する再トライみたいなところもあると思います。

堀江 タイトルがいいですよ、『はなとゆめ』って。イメージがふくらみますよね。

冲方 今日は本当に楽しかったです。


対談 冲方丁×堀江貴文

(この対談は「本の旅人」12月号に掲載されたものです)

ネットがつながらなかったので仕方なく本を1000冊読んで考えた そしたら意外に役立った
ネットがつながらなかったので仕方なく本を1000冊読んで考えた そしたら意外に役立った

■堀江貴文(ほりえ・たかふみ)
1972年福岡県生まれ。実業家、ライブドア元代表取締役CEO、液体燃料ロケット開発を行うSNS株式会社のオーナー。2006年証券取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕され、一審で懲役2年6ヶ月の実刑判決を受け、長野刑務所にて服役。今年3月に仮釈放された。著書に『拝金』『ゼロ』等。

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『はなとゆめ』刊行記念対談 冲方 丁×堀江貴文


渋川春海、水戸光圀に次いで冲方丁が取り上げたのは、なんと清少納言──読書家としても知られるホリエモンと、歴史小説の可能性を語り合う!


歴史小説に手を染めるやいなや、『天地明察』『光圀伝』と新作が出るたびに、その斬新な視点と、好奇心を刺激する物語で読者を魅了してきた冲方丁さん。一方、堀江貴文さんは『ネットがつながらなかったので仕方なく本を1000 冊読んで考えた』のなかで『天地明察』を絶賛。
型破りなアイディアで、世間を驚かせてきた二人の俊才が、冲方さんの最新刊『はなとゆめ』について、歴史小説の可能性について語り合った。


切り口が面白い『天地明察』

堀江 僕は『天地明察』が大好きなんですよ。

冲方 『ネットがつながらなかったので仕方なく本を1000冊読んで考えた』にも書評を書いていただきましたよね。ありがとうございます。堀江さんの、文化に対する飢餓感に、僕はすごいシンパシーを感じて。僕は子どもの頃海外にいて、中学二年生くらいまで、もう全く娯楽に触れられない人生だったので、ほんとうによく分かるんですけど、こういう感覚が通じてないなというのがずっとあったんですよ。

堀江 そのへん、僕も一緒なんですけどね。僕も田舎にいて、いまみたいにネットとかなかったんで、それこそ百科事典見るぐらいしか娯楽がなくて、周りの大人も全然そんなのに興味ない―田舎の大人って、パチンコやってるか、酒飲んでるか、スナック行ってるかみたいな人たちばっかりじゃないですか。だから情報に飢えてて、外とつながれることが至上の喜びというか。そういう思いって、いまの人たちにはないですよね、たぶんね。

冲方 ないですね。その飢餓感がいろんなことの動機になってます、っていう感覚が通じたの、正直、初めてです。

堀江 逆に言うと、僕は周りの人たちが飢餓感を覚えてないことに対して疑問だったんですよね。何でこの人たちは、この田舎で満足してるんだろうっていう。

冲方 同じコミュニティーの中でも、そういう方々はいらっしゃらなかったってことですか。

堀江 はい。僕はもう一人も出会ったことがないですね。

冲方 そういう時って、疎外感とかって抱くんですか。

堀江 もうすごい疎外感です。

冲方 ですよね(笑)。一人だけで。

堀江 自分が悪いんだと思ってました、最初は。みんな、こんなので満足してんのに、俺は何で満足できないんだろう、って。どっちかっていうとこう、自分のことをネガティブに考えてましたね。だから僕、中学校で封印したんです。

冲方 一回、自分の欲に蓋をした。

堀江 というか、内向きになったんですね。

冲方 ああ切ない、でもその気持ちわかります(笑)。だから久々に、同じ感覚をもった人に会えた、というか。本の読み方がすごい一緒だなと思ったんですよ。飢餓感がある時にそういう娯楽に触れると、自分の中で何倍にも膨らませるじゃないですか。自分の中でストーリーを構築していくというか、内容を自分の中でコピペしてないなって。むしろどんどんその本の内容を自分から改変していくとか、デカくしていくみたいに。

堀江 そう。だから、普通の時代小説ってなんか物足りないんですよね(笑)。予定調和というか。

冲方 勧善懲悪的な感じですか。

堀江 そう、勧善懲悪か人情もの。

冲方 講談の流れから生まれていますからね。もともと江戸の下町の人たちを楽しませるために発達した物語なので。

堀江 みんなそれを踏襲してるじゃないですか。だから切り口がつまんないんですよね。僕が好きなのは井上靖の『おろしや国酔夢譚』とか、田沼意次のイメージをくつがえした『青雲の梯』(高任和夫著)とか。歴史の真実をえぐっていく小説が好きなんです。テレビ番組ですけど、NHKの「タイムスクープハンター」も好きですね。

冲方 僕も見てます(笑)。『おろしや国酔夢譚』もいいですよね。

堀江 どれも切り口が面白い。冲方さんももともと時代小説を書いていたわけじゃないんですよね。

冲方 違うジャンルから出発しましたけど、もともと書きたかったんですよ。ただ、『天地明察』のような歴史ものはキャリアがないと受け入れてもらえないところがあるのと、江戸時代を包括的に描く実力を身につけるまでに時間が必要でしたね。三十代になってやっと書けたっていう感じです。


対談 冲方丁×堀江貴文

平安時代の教養力

堀江 『はなとゆめ』の主人公は清少納言。『枕草子』のメイキングなんですよね。

冲方 そうですね。『枕草子』を最初に読んだ時に、時代背景と照らし合わせると、『アンネの日記』っぽいなと思ったんですよ。アンネも清少納言も過酷な状況のなかで、美しいものだけを文章で残そうとした。とくに平安時代って、紙と筆が唯一のメディアですから、そこにすべての観念というか、思想が入り込んできている。

堀江 紙があったからそれができたっていうのは、どういうきっかけで思いつかれたんですか。

冲方 あれは事実なんです。『枕草子』の最後の文章に、「そもそも私が書き始めたのは……」って、ちらっとだけ載ってるんですよね。

堀江 『枕草子』を読んだことがないから知らなかった(笑)。あの頃、紙って貴重品だったんですね。

冲方 紙と筆が大量に手に入る人たちって、人口の中の一%とか、そういう感じだったと思いますね。彼らこそ、当時のメディアを支配してた人たちだったんです。

堀江 しかもみんなが字を読めたわけじゃない。そんななかで字を読めた教養人の知識の膨大さはすごいですよね。

冲方 いやあ、凄まじいですね。全部暗記ですからね。読み書きができても簡単には書き写せないので、読んだら覚えて、の繰り返し。これぐらい全部覚えてないとおかしいという常識が、たとえば『伊勢物語』に出て来る和歌を全部とか。しかもそれを天皇がみんなの前で試すんですよね。「この歌をそらんじてみよ」と。そういう世界なんです。

堀江 漢詩も和歌も覚えて、そこからイマジネーションを広げる。即興でパフォーマンスするみたいな感じで、上の句にひねった下の句を返すとか。驚きですよ。

冲方 本当ですね。それが当時の文化そのものなんです。僕がなぜ『枕草子』と清少納言に興味を持ったかというと、藤原道長はなぜ天皇を殺さなかったんだろうっていう疑問があったからなんですよ。中国とかヨーロッパだと、バッサバッサと王様が殺されて、王朝が切り換わっていくじゃないですか。

堀江 いわゆる革命が起きますよね、向こうは。日本の場合は、マッカーサーが来たって天皇には何もできなかった。

冲方 やっぱり文化の壁というか、力だと思うんですよ。文化力を結集することによって、天皇が殺せなくなるんだな、と。「柔らかい防壁」というんですかね。イタリアのフィレンツェは、芸術品をいっぱい集めることによって、戦争の対象にしにくくしたっていうのを聞いたことがあって。

堀江 京都もそうですよね。

冲方 そうです、まさに。『はなとゆめ』でいえば、藤原定子という中宮がその象徴的存在なんです。お父さんが亡くなって、お兄さんが島流しになる。後ろ盾がどんどんいなくなるなかで、女一人で、最高権力者の藤原道長と戦わなくてはならなかった。それができたのは文化の力ですよ。


対談 冲方丁×堀江貴文

武力より文化の力

堀江 なんか面白いなと思うのは、その宮廷が流行を作ってたわけですよね、それが地方に拡散していくというか。

冲方 はい、そうなんですよね。

堀江 それがまた固定化して、いまだに残ってたりとかするところも面白い。

冲方 日本の場合、支配を及ぼす時に、武将を派遣しないんですよね。文官を派遣するっていうか、だいたいこうステータスでもって平伏させるという。それに、島流しにしたって、これがロシアだと、シベリア送りって、要するに飢え死にしろっていうひどい刑なんですけど、日本の場合、島流しになっても、べつに死なないですからね。その後、帰って来たりするんで。

堀江 文化と断絶されることがそれだけ嫌だったっていうことですよね。

冲方 ステータスと遮断されるっていうことは、もう何者でもなくなるというか、人格が死ぬんでしょうね。

堀江 文化的に殺すっていうことなんだと思います。でも、それのおかげで地方には文化が根付くんですけれども。

冲方 確かに。

堀江 やっぱり隠岐とか行くと、ゆかりのお寺とか神社とかがあって、祀られてますよね。僕も、神社の由来とかを見たりするの、結構好きなんですよ。そこで疑問がけっこう出てくる。だから日本中にネタって隠されてて、そういうのに光を当ててほしいんですよ。学校で習う歴史は政治のことばかり。でも、文化の力があってこその政治だったと思うし、経済だって重要だった。そこにフォーカスすれば面白い小説がたくさん書けると思うのに、なぜやらないのかな。『ネットがつながらなかったので〜』、も、ひるがえせば僕、千冊読んで、こんだけしかいい本を抽出できなかったっていう。必死にこう川底の砂をさらって、やっと微量の砂金が見つかったけど、ええっ、こんだけしかないのかよ、みたいな感じなんです。だから時代小説にしたって、もっと掘り下げてほしい、という気持ちはあります。冲方さんにはどんどん新作をリリースしてもらって、刺激を与えてほしいですよね。

冲方 がんばります(笑)。堀江さんはご自分で歴史小説を書いてみたいとかは思われないんですか。

堀江 書いてみたい題材はありますけど、時間がなくて。いままで小説は二冊書いたんですけど、取材する時間がないから自分が知ってることしか書けない。

冲方 いまは歴史小説を書くにはいい時代だと思いますね。最近、ようやく歴史がタブーじゃないというか、娯楽にしても怒られない風潮が出てきたような気がします。それにいまはすごい活字文化真っ盛りですから。子どもがメールでもツイッターでも何でも日常的に文章書きますからね。人類がこんなに文章を読んで書いてた時代ってない。

堀江 ほんとうに思いますね。ネットが活字文化を殺すなんていうのは、まったくの反対で。

冲方 大ウソですよ。僕がデビューした頃から、活字離れとか言われてましたけど。

堀江 しかも、一つの文章の中にいろんなことを盛り込めるようになったというか。だから、技術力が上がってるってことですよね。今って、たぶんキュレーションの時代だと思う。いわゆるマッシュアップというか。

冲方 そうなんですよね。

堀江 音楽で言えばDJ みたいなもんで、いろんな音楽を組み合わせてこうやったらいいんじゃないの、とか。たとえばファッションの世界も109のギャル服とかって、ルイ・ヴィトンとかのコレクションをパリコレとかで見て、あ、この服可愛いけど、ここにポケットもう一個付けたらもっといいよね、とか、そういうノリで作っていくんですよ。

冲方 日本人はもともとそういうのがメチャクチャ得意ですよね。仏教と神道をマッシュアップしちゃうなんて、凄まじい能力ですよ。時代小説を書く時でも、何か真実性があると思ったところをガッとこう集めて抽出するという。

堀江 今回の作品も、『枕草子』を研究してる人だって書けないですよね。大学の研究者の人たちが、エーッて思う内容ですよ。

冲方 一応そういう人たちの研究を吸収したうえで書いているんですが、どうやったら面白くなるかを必死で考えました。僕も解説書を読むたびにイライラしたから。何を言ってるか全然わからない。これを読者に押しつけたら、たぶん一行で読んでやめるなと思って。

堀江 すごいな。

冲方 海外から帰ってきて、一番わけわかんなかったのが、古文の授業だったんです。なので、ちょっとルサンチマン的な気分もありますね。『はなとゆめ』は、自分が理解しきれなかったものに対する再トライみたいなところもあると思います。

堀江 タイトルがいいですよ、『はなとゆめ』って。イメージがふくらみますよね。

冲方 今日は本当に楽しかったです。


対談 冲方丁×堀江貴文


(この対談は「本の旅人」12月号に掲載されたものです)


ネットがつながらなかったので仕方なく本を1000冊読んで考えた
そしたら意外に役立った

ネットがつながらなかったので仕方なく本を1000冊読んで考えた そしたら意外に役立った

■堀江貴文(ほりえ・たかふみ)
1972年福岡県生まれ。実業家、ライブドア元代表取締役CEO、液体燃料ロケット開発を行うSNS株式会社のオーナー。2006年証券取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕され、一審で懲役2年6ヶ月の実刑判決を受け、長野刑務所にて服役。今年3月に仮釈放された。著書に『拝金』『ゼロ』等。






「本の旅人 2013年12月号」



待望の文庫化!







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