夜は短し歩けよ乙女

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書籍情報


新時代のとびらを開く、恋愛ファンタジーの大傑作。

夜は短し歩けよ乙女

著者:森見 登美彦

黒髪の乙女にひそかに想いを寄せる先輩は、京都のいたるところで彼女の姿を追い求めた。二人を待ち受ける珍事件の数々、そして運命の大転回。山本周五郎賞受賞、本屋大賞2位の大傑作。

  • 発売日 : 2008年12月25日
  • サイズ :文庫判
  • 定価 : 本体552円(税別)

ISBN : 978-4-04-387802-4-C0193

  • 発売日 : 2008年12月25日
  • サイズ:文庫判
  • 定価:本体552円(税別)

ISBN : 978-4-04-387802-4-C0193

内容紹介

私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で、「偶然の」出逢いは頻発した。我ながらあからさまに怪しいのである。そんなにあらゆる街角に、俺が立っているはずがない。「ま、たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返す私に、彼女は天真爛漫な笑みをもって応え続けた。「あ!先輩、奇遇ですねえ!」(本文より)

森見 登美彦

1979年、奈良県生まれ。京都大学農学部卒、同大学院修士課程修了。2003年、『太陽の塔』で第15回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。独特の文体と奇想に満ちた作風を身上とする。他の著書に『四畳半神話大系』『きつねのはなし』がある。

登場人物


黒髪の乙女

天然キャラの女子大生。魅惑の大人世界に憧れて、夜の木屋街に繰り出すほどの好奇心の持ち主。他人には優しいが、とことんマイペース。底なしの酒量を誇る。「先輩」の想いには気づかず、待ち伏せはすべて奇遇だと思い込んでいる。得意技は、万能のおまじない「なむなむ!」と、姉から授かった「おともだちパンチ」。

先輩(私)
京都の某国立大学に通う、偏屈で妄想癖のある大学生。クラブの後輩「黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せるが、思考ばかりが先走りがちで行動がともなわない。
本人いわく「彼女という城の外堀を埋め続ける日々」。

羽貫さん
鯨飲という言葉がもっともよく似合う、大酒飲みの美女。職業は歯科衛生士。
得意技は、宴会にまぎれこんでタダ酒を飲むこと。酔っぱらうと人の顔を舐める。

樋口さん
「天狗」を自称する正体不明の若い男。なぜかいつも浴衣を着ている。
地に足のつかない想像をすると宙に浮かぶという「樋口式飛行術」を会得している。

東堂さん
「東堂錦鯉センター」の経営者。厄介事がたび重なったうえ、最愛の鯉たちを竜巻にさらわれて落ち込んでいるところに「乙女」と出会う。

李白さん
先斗町界隈では有名な超お金持ちで、謎の老人。自家用三階建て電車に乗っている。
本業は金貸しらしいが、古書売り立て会を主催したり、偽電気ブランの元締めを務めたりもする。

千歳屋
京料理「千歳屋」の若旦那。文化遺産の保護を口実に、春画の蒐集を趣味としている好事家で、「閨房調査団」の一員。

古本市の神様
あらゆる本についての知識を持っていて、神をないがしろにした蒐集家の書庫から本をさらうといわれている。
かわいい外見に似合わず、少々性格が悪い。

学園祭事務局長
男にしておくにはもったいないほどの美貌の持ち主で、趣味は落語と女装。学園祭で起こる様々なトラブルへの対応に忙しい。
「先輩」の数少ない友人の一人で、彼が秘めた想いにも気づいており、ときにはからかい、ときには励ます。

偏屈王
学園祭でゲリラ演劇「偏屈王」を首謀している人物。大学構内のどこかで脚本を書いているらしいが、その正体は不明。

パンツ総番長
失恋をきっかけに、願いごとが叶うまでパンツを穿き替えないと誓った大学生。
歴代の記録を塗り替えて「パンツ総番長」の称号を手にした。

須田紀子さん
学園祭で本物そっくりの「象の尻」を出し物にしている女子学生。好きなものは、小さくて丸い達磨。

森見登美彦&大森望 対談

空想でもいい、高らかに青春を謳え

「野性時代」連載時から熱狂的な支持を集めてきた長編『夜は短し歩けよ乙女』が刊行される森見登美彦さんと、デビュー作『太陽の塔』以来、森見さんを高く評価している大森望さん。ともに京都大学のOBであるお二人に、舞台となる京都の街と、作品の魅力について語っていただきました。(「本の旅人」2006年12月号より転載)

暴走するマジックリアリズム

大森 森見さんの単行本は、十月に出た連作怪談集『きつねのはなし』が二年ぶりでしたが、続けて爆笑ラブコメ『夜は短し歩けよ乙女』が出ます。ゲラで読ませていただきましたが、いやもうこれは大傑作ですね。すばらしい。文句なしに今年の恋愛小説ナンバーワン。日本ファンタジーノベル大賞を受賞した『太陽の塔』の発展形というか、続編みたいにも読めますが。

森見 あっちより、もっと好きかもしれません。

大森 個人的には、『太陽の塔』のときから森見さんの小説はとても他人の話と思えなくて。なんでオレの話をこんな詳しく知ってるんだ、と(笑)。僕が京都にいたのは二十年以上前、一九七九年から八三年までですが、京大生の生活は今も全然変わってなくて、パソコンとケータイが増えただけ。それをリアルに書けば書くほど、東京の現実からは非日常的に見える。そこがマジックリアリズムなんだと思ったんですが、今回は幻想性がさらに暴走して、魔術的なリアリズムが爆発しています。

森見 『太陽の塔』の大半はフィクションなんですけど、実際にあったことも含めて、できるだけお話になるように並べたんです。でも、それでネタを全部使っちゃったので、こういうファンタジーっぽい、凝った形にしていかないと、『太陽の塔』みたいな密度では書けないと……。

大森 骨格だけとりだすと、思いきりベタなラブストーリーですからね。『太陽の塔』原理主義の森見ファンは、『四畳半神話大系』を読んで、「彼女がいる主人公など断固許せん!」と怒ってましたけど(笑)。

森見 そんな、心の狭いことではダメです。

大森 そういう読者も、今回の男性主人公の「ナカメ作戦(なるべく彼女の目にとまる作戦)」にはきっと涙するんじゃないかと。そう言えば、ヒロインが『太陽の塔』のマドンナの水尾さんと同じく、叡電元田中近辺に住んでるじゃないですか。僕も一回生のときは田中樋ノ口町に住んでて。

森見 すごく近所ですね。

大森 しかも、一回生のとき「鴨川デート」した同級生の女の子が、叡電の踏切を渡った向こう側のアパートに住んでたんですよ。当時の京大生はケータイどころか固定電話もなく、呼び出しが当たり前だったんで、夜は電話もかけられなくて、その近所を意味もなくうろうろしたり。そんな恥ずかしい記憶が強烈に刺激されて、「ああ、もう読めない!」と本を伏せてしまう(笑)。

森見 叡電には、あまり乗ったことはないんです。いつも見てるだけ……。

大森 出町柳から八瀬・鞍馬まで行く市電で、元は京福電鉄の叡山本線だったのが、今は京阪電鉄の傘下なんですね。そういえば、『夜は短し~』には「京福電鉄研究会」というサークルが登場する。でも京福って、本当に京都と福井を結ぶはずだったんじゃないの? 福井にも京福の線路があって、それとつなぐ計画だったとか……。

森見 そういう計画があって、結局儲かる路線だけを残したのが、叡電とあれだったという。これは父親が言ったことなんで、どこまでホンマかわからないですけど。

大森 その叡電が『太陽の塔』ではウルトラCを決めてますが、今回は祇園の町を三階建ての電車が走る。あれは何ですか?

森見 湧き上がってきたんです。叡電みたいな小さな電車がフラッと町に出てくる、みたいなのが好きで、つい出したくなるんです。三階建てにしたのは、電車の中に銭湯とかいろんなものが入ってるといいなと……。『ドラえもん』みたいな感じで。

大森 つげ義春の『ねじ式』とか、あるいは押井守を連想したんですが。

森見 押井守さんも好きなので、入ってるだろうと思います。ボーッとしてると、押井守と宮崎駿が自動的に出てくるんです。

大森 たしかに、『千と千尋の神隠し』っぽいところもあるし。

森見 いろいろ想像してるとき、気を許すとそれが入ってくるので、後から読み返すと「うわっ、似てる!」となるんです。

大森 森見さんの場合は、そういう異界が今の京都と地続きになってる。作中に出てくる地名が抜群の効果を生んでますね。京都は「三条河原町下ル」みたいに通りの名前で呼ぶものと思ってる人が多いでしょうが、実は町名がものすごく細かく分かれてて、数十メートルの幅で場所が特定される。

森見 学生時代に寿司屋の配達をしてたんです。そのときに、初めて住宅地図を見て「面白いな」と思って、地名をいろいろ出そうと考えました。

大森 今回は中編四編の連作ですが、すばらしいと思ったのは四季の表現。春は木屋町・先斗町、夏は古本市、秋は十一月祭で、冬は風邪で寝ている(笑)。もう、ここしかないというツボですね。京都で学生生活を送った人ならたぶん抵抗できない。しかも、ラストシーンは真冬の「進々堂」(京大近くの喫茶店)……。

森見 そこは、ちょっと恥ずかしいですけど(笑)。『ハチミツとクローバー』を読んだので、美しく終わろうと。

大森 豊崎由美さんは「『ハチクロ』みたいな軟弱な青春物より、『太陽の塔』の青春のほうがはるかにすばらしい。こっちを映画化してくれ」と言ってましたけどね。

森見 『ハチクロ』は『ハチクロ』でいいんですけどね(笑)。

大森 京大生には『ハチクロ』的な男女交際こそファンタジーだと思ってましたが、京大ミステリ研はそうでもないらしく、綾辻行人、我孫子武丸、麻耶雄嵩とサークル内結婚してるんです。でも、僕の在学当時の京大SF研には女性会員がほとんどいなかった。男女交際という文化は存在しないふりをしてましたね。完全に森見派ですよ。

森見 いや、別にそういう派閥をつくらなくても……(笑)。


「京大的リアル」とは?

大森 十一月祭の話も傑作でした。

森見 僕自身は、学園祭にはあまり関わらなかったんです。ライフル射撃部で「射的屋」をやったことがありますが、学園祭のときは実家に帰ったり旅行に行ったりしていたので、イメージがあまりないんです。

大森 だいたいこんな感じですよ。十一月祭事務局長が、また滅茶苦茶いいキャラで。

森見 そのモデルではないんですけど、事務局長をやった友達がいたので、その人にパンフレットをもらったりして。あとは、「こうだったらいいな」という妄想です。

大森 作中に出てくるような「謎の組織」って、普通はありえないけど、京大的にはすごくリアルでしょ。その辺もマジックリアリズム的ですね。現実に西部講堂連絡協議会とか存在してるし。最近でも、「折田先生像」をめぐる落書き事件とか。

森見 あまりにもいたずらがひどくて、僕が入学した年に撤去されたんです。

大森 モアイ像にされたり、ウルトラマンゼアスにされたり。でも、銅像撤去後もはりぼての新作が次々に作られて、今年は『ちびまる子ちゃん』の永沢君の像が出現したとか。誰がやってるのか全然わからないのに、なぜか伝統が継承されてゆく。

森見 大学生のとき、そういうアホなことを僕はあまりしなかったので、憧れみたいなものがありますね。基本的に引っ込み思案で、部屋でじいっとしてることが多かったから。

大森 そんなことを自分でやってた人は、こんな小説なんか書いてない(笑)。十一月祭の章だと、「韋駄天コタツ」も傑作でしたね。いかにもありそうな話で。

森見 農学部の学園祭も十一月祭と同時期にあって、その頃になると、農学部の門から入った所に誰かがコタツを出して、みんなでワイワイやってる。それを傍目に見ながら歩いてたんですけど、「自分も、ああいう所に入ってみたいな」と思いながら、結局入れなかったというのが今さら……。

大森 その妄想が小説化されてると。すごくよくわかります。実際に参加してみると意外につまんなかったりするから、入らないほうが正解だったかも(笑)。この小説は、いろんな意味でわかりすぎてどうも客観的に見られないんですが、東京で大学生活を送っていた人が読むとどうなんでしょうね。東京って、学生街は特殊でも、渋谷や新宿に行くと、もう大学生活と切り離されるじゃないですか。ところが京都だと、百万遍から四条河原町に出ても変わらない。

森見 大学の延長が、ずっと街中に続いてる感じがしますね。

大森 歩いて行こうと思えば、河原町ぐらい行けてしまう。だから夜の先斗町を歩く場面も、学生の歩き方という感じで。

森見 ああ、それもあんまりやったことないんですが……。夢ですね。

大森 コンパを抜けて、一人で飲みに行く一回生の女の子とか……おるわけないやん!(笑)

森見 はい、それは願望……。

大森 でもあの辺は、ちょっと路地を入ると変な空間がありそうな雰囲気で。

森見 京都中どこでも、そういう感じです。

大森 普通、京都を舞台に幻想的な小説を書くと、歴史物か伝奇小説風になるんですが、森見さんの京都は、歴史から切断されているというか、時間が止まってますね。

森見 神社とか陰陽師の話にあまり興味がないというのもありますし、いつもブラブラ外を歩きながら思いついたことを書いてるので、思いつきの土台がそこに見えている風景になるというのがありますね。

大森 その割に地下鉄が出てきませんが。

森見 あ、そうか。あまり学生時代には乗らなかったからでしょうか。それは、あまり意識したことがなかったです。

大森 だからますます僕の住んでた京都と変わってない気がする。当時は地下鉄がなかったから、京大生の交通手段は市バスか自転車か原付か徒歩でした。しかも、その頃あった飲食店や商店が大体そのまま出てくる。古本屋の「赤尾照文堂」とか。

森見 そうです。それは古本市に実際に出店している店です。

大森 下鴨神社の古本市の章では、『四畳半~』に続いて、糺の森が中心になりますね。

森見 はい、なぜか好きです。ちょうどいい位置にあるし。『四畳半~』を書いたあと引っ越したんですけど、あまり行動範囲は変わらないので、やっぱり小説もそこら辺がメインになります。

大森 『四畳半~』の「羽貫さん」「樋口さん」というキャラクターが今回も登場しますが、一種のスターシステムなんですか?

森見 あれは、苦し紛れです(笑)。新しく人物を作るのがしんどかったから。


シリアスとコミカルの両端で書く

大森 『きつねのはなし』は、今回のと正反対の大変怖い怪談でしたが、書いていてどっちがどうなんでしょう。

森見 まじめなものはボロが出そうなんで、本当はあんまり……。『夜は短し~』みたいなものだと、ボロが出ても「本気を出してないから」と、言い逃れができるじゃないですか。まじめなものだと、「本当に失敗しとるやんけ」という話なので。

大森 (笑)。いや、うまくいってると思います。完全に理詰めでもなく完全にでたらめでもない、微妙なところをうまく綱渡りしていて。それに対して、『夜は短し~』はカッチリ作っていますよね。話がきれいにつながって落ちる。

森見 あれは、まあ……はい(笑)。いや、何か書くときに、怪談か笑い話か、どっちかしか書きたいと思わなくて……。

大森 笑える話じゃないと、自動的に怖い話になる?

森見 そう。シリアスなお話を書く意味がよくわからないんです。シリアスなお話を書くんだったら、怪談しかない。ミステリーほど緻密なのは考えられないので。

大森 小説の作り方はずいぶん緻密だと、今回、特に思いましたけども。

森見 これはわりとファンタジーなので、ミステリーと違って強引に腑に落とさせることができるから、なんとか書けるんです。いろいろ物事が絡んでいくシチュエーションを創る場合に、現実の出来事が絡み合ったクライマックスを創るということが、頭にどうしても浮かばなくって……。

大森 怪談か笑い話かという意味では落語家的ですね。『夜は短し~』にもそのまま落語になりそうなシチュエーションが結構出てくる。泣かせる人情噺も書けそうだし。

森見 笑いを書いていて最後に涙が奔放に流れるというのは簡単なので、できるんですよ。フッと力を抜くと、泣くほうに行ってしまう。そういう面では苦労しません。それは、笑いという分野の一部なんです。

大森 油断すると人情噺になる?

森見 はい、勝手になっていくんです。そうなるといかんな、とは思うんですけど、そっちに流れることはできる。今回は涙のほうに行かないように、結構頑張ってます(笑)。期間をあけながら書きためていったので、こういう形にできましたけど、これを一遍に書くのは無理かもしれません。

大森 読むほうも、一話で長編一本分の満腹感がありますね。この密度はすごい。古本の神様の話とか、火鍋対決の描写とか。

森見 あれは、どうしようか迷ってたときに、電車の中で同僚が「我慢大会をやれ」と言わはったんで、「じゃあ夏だけど鍋食わそう」って。

大森 勝負事が好きなんですかね。だいたい、古本対決がどうしていつの間にか鍋対決になっちゃうのか。

森見 「全然、無関係やんけ」って(笑)。

大森 「京福電鉄」と呼ばれている学生とか、妙ちきりんなキャラの設定がいちいち面白いんですが、ああいう小ネタは一生懸命考えるんですか。

森見 いや、一生懸命は考えないんです。それをお話にするのが、しんどいだけで。

大森 じゃあ、いくらでも思いつく?

森見 そう断言すると、それはそれで問題がありますね。「じゃあ、もっと書けよ」ということになるでしょう(笑)。

大森 はまるべきところにピタッとはめるのが大変なんでしょうね。今回の登場人物では、李白さんがいちばん謎だったんですけど。そもそもなんで「李白さん」なのか。

森見 いやあ……自分でもよくわからないです。最初は「狸が化けてるのかな?」と考えてたんですけど、李白さんの正体を明かすほうに行ってしまうと、別のお話になってしまうので。いい者か悪者かもわからないけれども、女の子には優しくて……。

大森 カネに汚い。でも、御大尽ですよね。

森見 なんでしょうね。『太陽の塔』の「太陽の塔」みたいな感じで、よくわからないけれども、なんとなく出したくなる。

大森 ああいう大金持ちがとんでもない遊びをするのも、ちょっと落語っぽい。三階建ての電車にはなかなか乗れないでしょうが(笑)。今回、女性パートの一人称は天然ボケ的に可愛い、これまでと違う文体ですが、あれはすんなり出てきたんですか。

森見 最初の一編を書いてるときには、ちょっと苦労しました。あとは、それに倣って書いてみるという感じでした。

大森 ああいう元気なずんずん歩いていく女の子を書こうというのが今回の出発点?

森見 できないことを破棄して、書けるものを求めていったら、そこしかない。……すごく消極的な感じですね。

大森 消極的にやってこうなるなら、極限まで消極的になって下さい(笑)。でも、『きつね~』で初めて森見作品を読んだ人は、『夜は短し~』で仰天するでしょうね。すごいホラー作家が現れたと思ったら、って。

森見 どっちからも怒られそう……。来年は、二冊ぐらい出るかもしれない。また、ちょっとスタイルの違うものですが、もう引き出しがないですね。

大森 書くことはまだいろいろあるじゃないですか。時計台地下の中央食堂とか(祇園祭の)宵山とか……。

森見 来年の二冊も、舞台は京都です。しばらくは京都のままですね。

大森 京都作家として末永く京都を書き続けてください。そのうち京都駅に「森見作品観光マップ」ができるかもしれない。

森見 このあいだ北白川の円山書店に行ったら、手作りの「『太陽の塔』関連マップ」が貼ってあって、びっくりしました。

大森 京大SF研の後輩たちは、強烈に森見作品にハマってて、作品に登場する名所ツアーとか勝手にやってました。「一生ついていきます」という気になってるらしい。

森見 いやいや、ついてきていらんですけど(笑)。

大森 まあ、「ラブラブデートの巻」みたいな甘く幸せな話を書けば、きっとすぐ離れていきますよ(笑)。

森見 はい。できるだけ近いうちに……。


森見登美彦(もりみ・とみひこ)
一九七九年、奈良県生まれ。京都大学農学部卒、同大学院修士課程修了。二〇〇三年『太陽の塔』(日本ファンタジーノベル大賞)でデビュー。著書に『四畳半神話大系』『きつねのはなし』がある。


大森望(おおもり・のぞみ)
一九六一年、高知県生まれ。京都大学文学部卒。在学中は同大学SF研究会に所属。出版社勤務を経て、翻訳家・評論家。近著に、豊崎由美氏との共著『文学賞メッタ斬り!リターンズ』。

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