ブックタイトル『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』

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概要

『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』

- 9 -「試してください」どことなく面白くなさそうな顔をしていた祥飛だったが、勧められると味わいは気になるらしく、握り飯に汁物をかけた。おもしろすす浸された握り飯を匙で崩すと、澄んだ出汁に胡麻と揚げ油の油膜がきらきらと浮かび、香ばしい香りが立つ。口に入れると、ひたさじゆまく祥飛は「うまい」と呟いた。つぶやあっさりした出汁と小海老の揚げ物が、丁度良い加減でこくを補い、しつこさをやわらげ、相乗効果でさらりと食べられる一品になる。匙を口に運ぶ祥飛に、理美は微笑みかける。ほほえ「故郷は懐かしいです。きっと誰でも懐かしいものではないかと思います。けれどわたしは今、帰りたいとは思いません。陛下がいらっしゃるここに、いたいです。わたしに居場所をくださった陛下がいる場所を離れようとは思いません」手を止め、祥飛は理美を見上げた。彼は理美の言葉に素直に反応して微笑む。「そうか。ならばいつか、余が余の子に帝位を譲り自由な身の上になったら、余が和国を検分に行ってやる。おまえも同行すれば良い。おまえに故郷を見せてやる」「お願いします」思いやりに感謝しながら、理美は心の中で海の向こうにいるはずの、懐かしい人たちに語りかける。