概要
『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』
- 8 -こうやって和国の食材を手にしたとき、透けて見える故国に言い知れない懐かしさを覚える。「和国は......というか、わたしが過ごしていた斎宮寮という場所は、国護大神に祈りを捧げるために作られた場所で、そこに集う者たちも大きな意味で神に仕えている者たちです。そのせいでしょうか、あそこはとても穏やかで優しい場所でした」遠い故郷を探すように、理美は翡翠泉の水面に視線を彷徨わせる。その横顔を見ていた祥飛は汁碗を卓子に置き、小さくさまよたくし「すまぬ」と口にした。突然の謝罪に、理美は驚いて振り返った。「えっ!?そんなに不味かったですか、その汁物!?」まず「違う!相変わらずの惚けぶりだな、おまえは!余がすまぬと言ったのは、おまえを故国から切り離したことだ。良いとぼ場所だったのだろう。おまえの話す顔を見ていればわかる」拗ねたような、申し訳ないような祥飛の表情に、理美は思わず顔がほころぶ。す(お優しい。けれど同時に、崑国よりも故郷を愛しているようなわたしの態度が、少しお気に召さなくて、いじけた気分になってしまわれたのかしら)理美は祥飛の傍らへ進むと、祥飛が卓子に置いた碗に手を添え、彼の前へと寄せる。かたわ「この汁物、実はそちらのご飯にかけていただくと、さらさらと食べられるんです」「汁をかけるのか?」