概要
『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』
- 6 -何か気分を変えたいようなことが起こったのだろうと察した理美は、笑顔で出迎え、簡単な昼餉を準備した。あまり祥飛を待たせないようにと、和国の食材、堅魚堅と海布で出汁を取り、塩とわずかな甘醤で味を調えた汁物を作った。あとは飯けんぎよけんうみふだしガンジヤンととのに胡麻風味の油と揚げた小海老を混ぜて塩味をきかせて軽く握り、そこに和国の漬物、香漬を細かく刻んで添えて出した。ごまこえびにぎかおりづけ水祇宮の中心を成す、翡翠泉と呼ばれる泉の上に建つ四阿には、水面を渡る涼しい風が吹き抜ける。微かな風に、祥飛のかす紫紺の裳裾がそよぐ。もすそ「和国ですか?」どうして突然祥飛がそんなことを問うのかと、理美は首を傾げる。しかしすぐに、彼が手にした汁碗を見て気がつく。汁かし物も香漬も和国の料理で、しかも握り飯も和国風だ。意識したわけではなかったが、手早く作れて、なおかつ、さらりと食べきれるものをと考えた結果こうなったのだ。茶を淹れながら、理美は答える。い「どんな場所と言われても、困りますけど。海に囲まれた島国で、山が高くて緑が濃くて、稲田がたくさんあるところです。あ、もちろん、都には稲田はありませんが。わたしが勤めていた斎宮寮は、自然豊かな場所だったので」さいぐうりよう「美味宮と呼ばれる神職だったのだな、おまえは」「いちおう、神職です。都人には厨の番人と馬鹿にされてましたけど」くりやばか