ブックタイトル『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』

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『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』

- 2 -「海の向こうの人々に」夏の盛りの稲田には、すっくりと育った稲がそよいでいた。眩しい陽の光の下、風が吹き抜けると稲田が波打つように一まぶひ斉に同じ方向へ揺れる。その稲田は、和国を守護する国護大神に捧げる米を作る神田だ。わこくくにまもりのおおかみささしんでん「奈津。崑国ってどんな国で、皇帝はどんな方かな。稲田はあるのかな?皇帝は優しい方かな?先代美味宮は崑国で今、なつこんこくうましのみや幸せかな?」畦に張り出した大樹の枝。その枝が作る木陰に、真佐智と奈津は並んで腰を下ろしていた。畦のあちこちに神職の姿がああぜこかげまさちり、忙しく行ったり来たりしているのは、神田でおこなわれる祭礼の準備だ。その準備の一環として真佐智は奈津と一緒に稲田に来ていた。汗を拭きつつ、奈津が不審げな顔をする。ふしん「どうした、いきなり」「うん。稲田を見ていたら、先代美味宮を思い出したんだ。わたしは今こうやって綺麗な稲田を見ているけど、その前は、きれい先代が見ていたんだと思って。あの方が崑国へ嫁いで一年以上になるから。どうしていらっしゃるかなって」とつ