ブックタイトル『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』

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概要

『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』

- 19 -い詰められた恐怖で震えていたのではなかった。「あっはっはっはっは!いい!良い品物だ。盗み甲斐がある!」侵入者は、喉を晒して笑い出した。「今日は下見に来ただけだったんだけどな」そして、少女と目を合わせてほほ笑んだ。その視線に、何かがざわつく。「大収穫だ。盗むべきものがこの目で見られた」こちらを見据えたままそう告げるその声には、最初の様な異国の癖など無く、全く抑揚の無い口調だった。この状況に全く動じていない様子の侵入者の態度に、青年は怪訝そうに眉を寄せる。「何がおかしいのか知らないが、お前が魔法の道具を見るのはこれで最後だ。これからは牢屋の壁を見て暮らせ」侵入者はその言葉など全く気にせず、少女から視線を外さない。また話し始めたときには、異国めいた明るい口調に戻っていた。「いい策だった。まさか追い詰められるとはな。美しい女は好きだ。賢い女はもっと。......あんたにはまた会いに来るよ」美しいなどと言われるような外見でないことは知っている。きっと話し続けることで、青年の気を逸らすのが狙いなのだろうが、青年の視線も剣先も、侵入者から外れることはなかった。