ブックタイトル『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』

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『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』

- 17 -青年が気を取られた一瞬を逃さず、侵入者は剣に力を込め青年を押しとばす。青年は体勢を崩したが、それは一瞬のことで、すぐに踏み込んで剣を突き出す。侵入者は剣を振るいそれを薙ぎ払おうとしたが、青年が食らいつき、またつばぜり合いになった。体勢を崩した時点で、逃げられていてもおかしくなかった。彼がそれを阻むことができたのは大きい。「ここは危険です!部屋に戻ってください......!」しかし、今は背後の男性に明らかに気を取られている。そのためか先ほどより動きが悪い。この膠着した状態が続き、青年が消耗してしまえば、侵入者に勝機が出る。そんな状況を全く分かっていないような気楽さで、身なりのいい眼鏡の男性が手籠の中から陶製の球体を持ち上げた。「四角い枠に反応して膜を張る仕組みにしたんだ。ガラスの修理は面倒だけど、これなら窓枠の所で卵みたいに割れば、一瞬で直せるんだよ」男性が言い終わらないうちに少女はその球体を一つひったくった。置物と入れ替えて投石器の弾にする。丸い方が命中させやすい。それに、ずっと狙いやすくなった。投石器を振って回転させ、狙いを定めてスカーフの片端から手を放す。遠心力で加速した陶製の球体は、侵入者を掠めもせず通り過ぎると、廊下の壁にあたって砕けた。