概要
『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』
- 16 -退路を断ちたい。物理的にそうするのが無理なら、心理的な圧迫だけでも。防寒にと襟元に巻いていたスカーフを引き抜いた。廊下の飾り棚にあった卵形の置物を布の真ん中に置き、その両端を片手で握る。即席の投石器だ。味方にも当たりかねない状況で投石を使うのは下策だが、戦えるのだと思わせたい。そして、とうせきき侵入者の意図を青年にも伝え、侵入者の注意をこちらに向ける言葉を発した。「逃げようと思っても無駄」初めて、侵入者の口元から笑みが消える。「帯剣した男に、女の子は投石?とんでもない城だな」逃げたとしても射程の長い投石が追ってくるという圧迫が、侵入者の形勢を悪い方へと傾けた。正直に言えば、侵入者に命中させる自信はない。このまま青年が競り勝ってくれれば──。その時、少女の真横のドアが、のん気な声と共に開けられた。「また窓が割られちゃったけど、これを使えばすぐ直せるからね」鼻先にかけた小ぶりな眼鏡を自慢げに直し、手籠を掲げた身なりのいい長身の男性が出てきた。彼がにこにこしながらそう言うと、青年が悲痛な声を上げた。「お願いですから部屋にいてください」!!