ブックタイトル『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』

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『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』

- 15 -入に使った窓から逃げ出すはずだ。だからこそ挑みかかることなく、時間を稼ぐように言葉を重ねている。青年の集中が切れるか、動揺を誘える瞬間を待っているのだ。「この城に腕の立つ執事がいるとは聞いてたが、そんなの普通机仕事が達者ってことだと思うだろ?物理的に強いって意味だとはね」からかうような言葉にも、青年は動じない。視線も剣先も、侵入者から逸れることはなかった。「俺が剣しかできないような言い方だな」そう言って青年が剣を繰り出した。剣を剣で受ける、鋭い金属音が廊下に反響する。接した刃に押されて侵入者の足元がじりじりと下がった。だが、侵入者の方が上背があり、体格には恵まれている。先制はしたが、細身の青年は力の面では不利だろう。長く続けば押し戻されかねない。そしておそらく、青年は侵入者が逃げ出そうとしていることに気づいていない。自分に向かってくる相手の制圧より、逃げようとする相手を追いかけて捕縛する方が難しいはずだ。逃走の意図に気づいていれば、ここまで余裕でいられるはずがない。かといって、それを教えることで、青年の気を逸らすのは避けたかった。こんな時はどうしたらいい。母の形見のペンダントを固く握りしめる。