ブックタイトル『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』

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『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』

- 14 -一瞬だけこちらを振り返り、青年が告げる。若い張りのある声だった。ちらりと見えた顔があまりに美しく、束の間息を?む。十六、七歳だろうか、?のラインは男性らしさがあるが、長いまつげに縁どられた目に、細く通った鼻筋という繊細な作りの顔だちで、形のいい目の中で光る緑色の瞳が印象的だった。王子様めいた外見だが、ツンとした眉やまっすぐな口元が、ちょっと生意気そうに見える。「随分かわいい加勢だな?」侵入者もこちらを見て、からかうように言う。その言葉には、微かに異国の癖があった。「そんな華奢な体でどうする気だ?色仕掛けなら大歓迎だけどな。黒髪の美人なら特に」軽い口調で、そう続けてきた。服装、会話から感じる気質、話し方の癖からして、南方の国育ちの様に感じるが、侵入者の見た目からはどこの国の人間とも言い切れない。そのことに少女はどこか不安を感じた。そして、青年が手ごわい相手であることはわかっているはずなのに、侵入者には逼迫した空気が無い。よほど腕に自信があるのだろうか──いや、足をわずかに引いている。逃げる気だ。侵入者はもう目的を果たすつもりはないらしい。二人が戦うつもりで対峙しているなら、むしろ決着は早いだろう。しかし侵入者は隙さえあれば奥に長く続く廊下か、侵