概要
『双花斎宮料理帖』書き下ろしショート・ストーリー/【試し読み】第16回角川ビーンズ大賞《優秀賞》&《読者賞》受賞作『魔法卿城の優しい嘘銀の執事と緋の名前』
- 13 -奥にいる男は幅広で反りのある長刀を構え、目元を布で覆い隠している。ガラスを割って侵入した賊はこの男だろう。黒ずくめだが華やかな型の衣装で、癖のある金茶の髪は両サイドを編み込んでから束ねている。目元を覆っていても、笑んだおお口元や男性的なかっきりとした鼻筋から、顔立ちの特徴は取れてしまう。単に派手好きなのだろうか、特徴を隠すための装束しようぞくというより、芝居がかった衣装のようだった。手前にいるのは、レイピアを構え、奥にいる侵入者を油断なく見据えた、プラチナブロンドのまだ年若い青年だった。奥に顔を向けた彼の年齢などわからないはずなのに、そう直感していた。相手に対して体を横に向ける構えは練達を感じさせる美しいものだった。それでも、この人は中背で細身の大人では決してない。これからまだ四肢を伸ばし、さらに成長するもの特有の若さを体から発している。首の後ろがチリチリするような緊張感の中では、それはいっそうはっきりと見て取れた。駆けつける必要はなかったのかもしれない。このひとは強い。武術に明るいわけではない少女でさえそう思う程、背を向けた青年の体からは、いっそ傲慢に見えるほどの余裕が感じられた。「侵入者一名、窓ガラス以外に被害は無し」