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魔法の数字19

 キングが本書の執筆を開始したのは二〇〇一年ですが、シリーズを再開する気になった理由に関して、『ダークタワーⅠ ガンスリンガー』の「前書き」で少し触れられていますが、ここで詳しく述べておきましょう。
 キングは夕方の散策を日課にしています。その際、読書をするのを常としているのですが、その日(午後四時半ごろ)、メイン州ノース・ラベルのルート5の路肩を歩きながら、読んでいた本(ベントリー・リトルのホラー長編『The House』)からふと目を離すと、前方からダッジ・ヴァンがやってくるのが目に入りました。ヴァンはいささかキングのほうに向かって来ているようですが、見通しのいい二車線なので、当然、車はなにごともなく通り過ぎるものと思われました。ところが、時速七十キロ近いスピードで突進してきたヴァンは、そのままブレーキもかけずにキングを見事に跳ね飛ばしたのでした。
 運転手は四十二歳の男性ブライアン・スミスでした。スミスはすぐにヴァンから降りると、歩いて最寄りの公衆電話を探しに行き、救急車を呼びました。そして、救急車がくる(キングの意識がまだある)までのあいだに、こんなことを言ったそうです。
「おれはこれまで駐車違反のキップ一枚切られたことがない。なのに今日は、大ベストセラー作家をひいちまうなんて人生最悪の日だ。ともあれ、おれ、あんたの映画全部大好きだよ」
 スミスがキングをはねてしまったのは、前方不注意、よそ見運転のためでした。ロットワイラー種の愛犬ブレット(弾丸)が後部座席のクーラーボックスに入っていた肉を食べようとしたのをやめさせようとしたのでした。ちなみに、スミスは自宅にもう一匹ロットワイラー犬を飼っていて、そちらの名前はピストル(拳銃)でした。中編『ライディング・ザ・ブレット』は、その問題の犬の名前にちなんだタイトルです。
 事故の調査にあたった保安官のひとりは、運ばれた先の病室でキングにこう言っています。
「スミスって男は、いまあんたが飲んでいるペプシの缶のほうがIQが高い」
 また、スミスが「駐車違反のキップ一枚切られたことがない」と言っていたのは嘘で、前年の九八年だけでも三回も免停をくらっていることが判明しました。
 そのことを知ってキングは、こう思ったそうです。
「わたしは、自分の創作した小説から抜け出てきたような男に殺されかけたんだ」
 ともあれ、キングは九死に一生を得ましたが、頭部を二十針縫い、肋骨が折れて肺が破れ、右の腰骨が砕け、右脚も膝から下は切断したほうがマシなぐらいの複雑骨折を負いました。事故当日から五日間で三度、その後の三週間で二度、都合一カ月のうちに五回の長時間にわたる大手術を受けました。
 おかげでキングは、モルヒネをはじめとする多種多様の大量の鎮痛剤がなくてはひとときも安らぐことができなくなってしまいました。完璧な薬物依存症者になってしまったのです。痛いから鎮痛剤を摂取するのではなく、鎮痛剤を飲みたいがために、脳が痛みを創造しているといったありさま。キングはこう語っています。
「今回自分の身にふりかかった災難でなにがアンフェアーかと言えば、あらゆるドラッグとアルコールの悪癖を艱難辛苦のはてにようやく断ち切れたと思っていたのに、またふりだしにもどされたことだ」
 同時に、入院中のキングはドラッグ漬けの日々のせいで幻覚を見るようになりました。自作の小説のキャラクターが自分を殺しに来るとか、自分が自作の小説のキャラクターのような気がする、といったありさまでした。そして、「自作の世界は、生きるにはとっても恐ろしい空間だ」と語っています。
 そんな状況だったので、結局キングは五週間の休筆期間をよぎなくされます。それまで自分の誕生日以外は一日も筆を休めることのなかったキングには信じられない体験でした。やがて執筆活動から長く離れていたために〝書き方〟を忘れてしまったのではないかといった自信喪失に陥り、あまつさえ薬物の副作用や事故の頭部への後遺症なども手伝って、思うように言葉が紡げませんでした。その時期に、リハビリをかねて執筆されたのが、ノンフィクション『書くことについて』でした。

 さて、ここまで記してきた、キングの人生における一大事件・事故ですが、それが起こったのが1999年6月19日なのです。
 すでにダークタワー・シリーズの読者にはおなじみのマジックナンバー19です。そして19と99です。6/19=619は逆さにして読んでも619です。あまつさえ、事故の発生した午後四時半は16:30。この数字をたすと、見事に19です。
 すでに19に関しては、『ダークタワーⅠ ガンスリンガー』の「はじめに――十九歳について」で語られていますが(そもそもその文章が付されるのは二〇〇三年の改訂増補版からです)、その数字が物語で重要な意味を本格的に持つようになるのは本書からです。そうした背後には、今述べた大事故の体験があるのでした。

(文・風間賢二/『ダークタワーⅤ カーラの狼』訳者あとがきより)

スティーヴン・キングのダーク・ファンタジー世界を彩る
豪華イラストレーターの競演!!

スティーヴン・キングの原点にして、集大成である〈ダークタワー〉シリーズ。
その原書のカバー絵や挿絵は、数々のイラストレーターが腕を競い、彩ってきました。
角川文庫版の『ダークタワー Ⅰ ガンスリンガー』『ダークタワー Ⅱ 運命の三人』(上下)『ダークタワー Ⅲ 荒地』(上下)は、山田章博氏による美麗なる装画で刊行されました。

6月17日に発売となった『ダークタワー Ⅳ 魔道師と水晶球』は、「心霊探偵八雲」シリーズの装画を手がける鈴木康士氏が。シリーズ唯一の未訳作品で、ファン待望の『ダークタワー Ⅳ-1/2 鍵穴を吹き抜ける風』では、「多重人格探偵サイコ」シリーズの田島昭宇氏が装画を手がけました。
いずれも、キングの多彩に満ちた物語世界を見事に体現した美しい装画です。

次巻以降の装画は、いったいどんなイラストレーターが手がけるのか!? どうぞご期待ください。

鈴木康士氏

画/鈴木康士

田島昭宇氏カラー 田島昭宇氏モノクロ

電子書籍だけの特典!
田島昭宇氏が、電子書籍の特典としてカバーイラストのモノクロバージョンを描きあげてくれたので、こちらもお楽しみに。

画/田島昭宇

映画化!2018年 新春、全国ロードショー!

監督:ニコライ・アーセル(「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」)
主演:イドリス・エルバ、マシュー・マコノヒー
配給:株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

本シリーズの映画化について

 当初キングは、〈ダークタワー〉シリーズに関して、「この作品は、映画化させない」と公言していました。ところが、シリーズが完結したのちには態度が一変します。なんと、二〇〇七年に映画化権を、たったの19ドル(〈ダークタワー〉シリーズではお馴染みのナンバー)で売ったのです。その相手は、J・J・エイブラムス監督。TVドラマ・シリーズ『LOST』(二〇〇四‐二〇一〇)で一躍名を馳せた監督・脚本家・製作者です。ところが、エイブラムスは二〇〇九年に、〈ダークタワー〉映画化の権利を放棄します。そして、『スター・トレック』(二〇〇九)や『スーパー8』(二〇一一)、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』(二〇一五)などの超大作映画を監督することになります。
 ついで、〈ダークタワー〉シリーズの監督として、二〇一〇年にロン・ハワードが自ら名乗り出ました。『ビューティフル・マインド』(二〇〇一)でアカデミー賞監督賞を受賞した一流の監督です。製作・配給はユニバーサル。しかも、シリーズ七作を映画公開しつつ、同時に映画では語りきれないエピソードをTVドラマ化するといった、未曾有の映像プロジェクトでした。全米公開予定日は二〇一三年五月。しかし、この時点ではまだ、その壮大なプロジェクトに対してユニバーサルからゴー・サインは出ていませんでした。
 やがて、主人公のローランド役にヴィゴ・モーテンセンやハビエル・バルデムの名前があがりだします。そして後者のバルデムに決定したという噂が流布します。ところが、二〇一一年七月にユニバーサルがこの企画から降りてしまいます。莫大な製作費にビビってしまったのです。ついで、二〇一二年三月にワーナーが〈ダークタワー〉シリーズに関心を示します。今回はローランド役にラッセル・クロウの名があがりました。しかし、同年の八月には、ワーナーも〈ダークタワー〉映画化・TVドラマ化をあきらめます。その後もパラマウントやライオンズゲート・エンターテインメントなどが候補にあがりますが、ことごとくポシャります。
 それでもロン・ハワードはくじけませんでした。さまざまな映画スタジオやTV製作会社に企画を持ってまわりました。その結果、二〇一五年四月にソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントとMRC(メディア・ライツ・キャピタル)が共同で製作・配給することが発表されました。今回、ロン・ハワードは監督からプロデューサー側にまわっています。
 新監督はデンマークの映画監督・脚本家ニコライ・アーセルです。我が国ではあまり知られていませんが、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(二〇〇九)の脚本や『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』(二〇一二)の監督として、海外で高い評価を得ています。二〇一五年八月の時点では、全米公開予定日は二〇一七年一月十三日でした。そして、まず〈黒衣の男〉役にアカデミー賞主演男優賞に輝くマシュー・マコノヒーが決定。ついで、主人公のローランド役は黒人のイドリス・エルバになりました。これには誰もが驚きました。なぜなら、〈ダークタワー〉シリーズの大方の読者にとって、ローランドのイメージは、マカロニ・ウエスタンの名作『荒野の用心棒』や『夕陽のガンマン』に登場するクリント・イーストウッドだったからです。
 ともあれ、二〇一六年四月に南アフリカで撮影は開始されました。その時にはすでに、本国での公開予定日は二〇一七年二月十七日に延期されていました。その後も、二〇一七年七月二十八日、八月四日と二度にわたって延期されています。
 さて、映画化作品の内容ですが、これは詳細を語ることができません。というのも、本シリーズのネタバレを含むことになってしまうからです。つまり、映画版は原作のⅠ巻目から順を追って語られるわけではないのです。主としてシリーズ後半のストーリーが描かれます。しかも、極秘に入手したシナリオによると、主人公はジェイク少年のようです(実際のフィルムでは、それが改変されているかもしれませんが)。
 製作側の意図としては、〈ダークタワー〉のコアなファンだけでなく、シリーズのことをまったく知らない人たちにもわかりやすくするためのストーリー作りをしたようです。いわば、映画版は、〈ダークタワー〉シリーズの第二ステージといったところでしょうか。原作の最終巻の終わったところから始まる新たな物語です。したがって、映画を百倍楽しむためには、原作シリーズを読破しておく必要があると言えるでしょう。もちろん、原作を知らなくとも映画はそれ自体で鑑賞できる作品になっているはずです(現時点ではトレイラーさえ登場していないので確かなことは言えませんが)。
 ちなみに、TVドラマ・シリーズは二〇一八年に放送予定。こちらは、ローランドが少年の頃のガンスリンガー修業時代の出来事がメインで、第Ⅳ巻『魔道師と水晶球』が原作になるとのこと。いずれにしろ、今から映画版もTVドラマ版も楽しみです。
(『ダークタワー Ⅰ ガンスリンガー』訳者あとがきより)

キング完全年譜

アメリカン・ブギーマンの半生

キングの登場と共にモダン・ホラーの歴史は始まった。
十二歳から投稿を続けた少年が、今まさにホラー小説の王となり、次々とベストセラーを書きとばしている。

キング完全年譜 (風間賢二)

  • 一九四七年

     九月二十一日、父ドナルド、母ネリーの次男としてメイン州ポートランドに生まれる。二歳年上の兄デイヴィッドは養子で、キングとの血のつながりはない。
  • 一九四九年 二歳

    父ドナルドの蒸発。その結果、以降キングとデイヴィッドは母の手ひとつで育てられる。

    「煙草を買いに出かけるといってそれっきりさ。それっきり今日にいたるまで父の消息はわからない。たぶん、もう死んでいると思う」

  • 一九五四年 七歳

     生まれて初めて映画を見る。それが『大アマゾンの半魚人』だった。たちまち、ホラーの世界に魅了され、その手の怪奇幻想小説を書きはじめる。

    「もちろん、七歳の子どもが見てもリアルなものとは言いがたい代物だった。怪物の皮の中に誰か人間が入っていることは重々承知していた。しかし、もっとリアルな怪物がその夜の夢の中にきっと現れるということも、同じぐらい現実味のあることとして感じられた……怪物を見たその夜の私の反応は、まさに完全無欠のものであったはずだ」

  • 一九五七年 十歳

     映画『世紀の謎 空飛ぶ円盤地球を襲撃す』を観賞中、ソ連の人工衛星スプートニクの打ち上げ成功を知り、初めて現実世界の恐怖を体験する。スクリーンに映し出された異星の円盤の攻撃を受けるワシントンDCのシーンが、ソ連に頭上から襲来されるアメリカの惨めな姿に見えたという。

    「私をはじめとするベビー・ブーマーたちにとっては、それが甘美な夢の終わりであり、同時に悪夢の始まりでもあった」

  • 一九五九年 十二歳

     母方の親戚の屋根裏で父ドナルドの蔵書を発見。初めて、ラヴクラフトやメリット、ウィアード・テイルズ誌系の怪奇作家を知る。この頃より、自作の短編をSF雑誌に投稿しはじめる。

    「当時の作品は五〇年代のB級SF映画に影響されたSF仕立てのホラーばかりだった。けっきょく、採用されたのはひとつもないけど」

  • 一九六二年 十五歳

     メイン州リスボン・フォールズ高校へ入学。身体が大きかったため、フットボールのチームに参加(させられた?)。この頃から、ロックンロールに夢中になり、バンドを結成してリズム・ギターを担当している。
  • 一九六三年 十六歳

     友人と『人、場所、そして物――第一巻』を自費出版。単独では短編「スター・インベーダー」を自費出版する。
  • 一九六五年 十八歳

     同人誌〈コミックス・レビュー〉に短編「ぼくは十代の墓泥棒」を発表。初の長編『アフターマス』を執筆開始するが、未完に終わる。
  • 一九六六年 十九歳

     後にバックマン名義で発表することになる『ハイスクール・パニック』を半分ほど書き上げて頓挫(とんざ)する。同年の夏に高校を卒業、秋にはメイン大学に入学する。

    「ぼくの高校生活は、総じてたいしたことはなかった。クラスで一番成績優秀だったわけでも、びりっかすだったわけでもない。友人もいたけど、かれらはカッコいい運動選手だったり学生自治委員長だったりしたわけじゃなく、平凡な友だちばかりだった」

  • 一九六七年 二十歳

     短編「鏡の床」を初めての商業誌〈スタートリング・ミステリー・ストーリーズ〉に発表。また、事実上の処女長編『死のロングウォーク』(後にバックマン名義で発表)を書き上げ、ベネット・サーフ/ランダム・ハウス新人小説コンテストに応募するが落選する。

    「この処女長編は、創作科の教授たちには評判がよかった。なのに落選してしまった。それでぼくはすっかり意気消沈し、その作品をニューヨークの出版社に投稿しなかった」

  • 一九六八年 二十一歳

     大学内の文芸誌〈ウブリス〉に短編「ほら、虎がいる」、「カインの末裔」などが掲載される。
  • 一九六九年 二十二歳

     大学図書館のバイトで、後に妻となるタビサ・ジェーン・スプルースと出会う。九月からは大学新聞〈メイン・キャンパス〉に風刺コラム「キングのゴミ収集車」の連載を開始する。当時のキングについてタビサはこう語っている。

    「彼の髪は切るべきだと思ったけど(大学時代のキングは典型的なヒッピー・スタイルをしていた)、そんな考えは間違いだったわ。彼は創作についてまじめに考えている唯一の学生だった。つまり、髪を切るなんてことより、彼にはもっとしなければならないことがたくさんあったのよ。だって、彼は貧乏のどん底にいたんだから。まるで、二〇年代か三〇年代の苦学生のようだったわ。食べ物も、着るものも、お金もなかったのよ。あんな状態でよく大学に来れたと感心しちゃったわ」

  • 一九七〇年 二十三歳

     長編第二作『闇の中の剣』を完成。だが、十二もの出版社に断られる。国語教師の免許を取得して大学を卒業。だが、教職は見つからず、クリーニング工場で働く。十月にメンズ・マガジン〈キャバリエ〉誌に短編「地下室の悪夢」が売れる。

    「今となってみれば、『闇の中の剣』はとんでもないしろもので、酔っているときでさえ、好きになれない」

  • 一九七一年 二十四歳

     メイン州ハンプデン高校に教職を得る。タビサと結婚。トレーラー・ハウスでの赤貧生活が始まる。長女ナオミ誕生。六十六年に途中で放棄していた長編『ハイスクール・パニック』を完成させる。だが、出版にはいたらなかった。この冬、後にバックマン名義で刊行されることになる長編『バトルランナー』を三日間で完成させる。
  • 一九七二年 二十五歳

    『バトルランナー』も出版社に却下される。長男ジョー誕生。生活は苦しくなる一方だった。絶望して酒びたりの日々を送る。その冬、短編として書きはじめた『キャリー』を長編にしようとするが、途中で放棄。タビサはその原稿を屑籠(くずかご)から拾い上げ、キングを励まして完成させる。

    「当時の家の中は一触即発の状態だった。作家として失敗すればするほどアルコールに逃避し、飲めば飲んだで家庭内のストレスは悪化して、ぼくはまた落ち込むといったぐあいさ。夜、ベッドで将来のことを思ってはゾッとしていたよ」

  • 一九七三年 二十六歳

    『キャリー』をダブルデイ社に送り、ついに出版契約を結ぶ。ペーパーバック権もニュー・アメリカン・ライブラリーに売れ、おかげで教職を退いて執筆活動に専念することができるようになる。この年、母のネリーが癌で死去。

    「ぼくはシンデレラ・ボーイのように思われているけど、実際には十二歳のときから投稿を始めて、ようやく『キャリー』が出版社に売れたのは二十六歳のときだった。比較的長い見習い期間を過ごしたといえるね」

  • 一九七四年 二十七歳

     一月に『最後の抵抗』(後にバックマン名義で発表)を完成。四月に単行本『キャリー』(初版三万部)が刊行される。『呪われた町』を脱稿。続けて、中編「スタンド・バイ・ミー」を書き下ろす。
  • 一九七五年 二十八歳

    『シャイニング』を完成。続けて、一気に中編「ゴールデンボーイ」を書き上げる。四月にペーパーバック版『キャリー』を発売。初版七十万部だったが、年内には百三十万部のセールスに達している。十月には第二作『呪われた町』(初版二万部)を刊行。
  • 一九七六年 二十九歳

     八月に『呪われた町』のペーパーバック版を刊行。すぐにミリオンセラーを記録する。十一月にはデ・パルマ監督の映画『キャリー』が封切られて大ヒットを記録すると、原作の『キャリー』も再び売れ、けっきょく三百万部近いセールスを達成。

    「デ・パルマ監督は『キャリー』を実に見事に映画化してくれた。最近の原作ものがどれもひどい出来なのを見るにつけ、これまでのところ自分の作品は、それほどひどい扱いを受けていないということを、まず感じたよ」

  • 一九七七年 三十歳

     第三作『シャイニング』を刊行。五万部のセールスを記録し、初のハードカバー・ベストセラーとなる。『デッド・ゾーン』と『ファイアスターター』の第一稿を書き上げた後、中編「刑務所のリタ・ヘイワース」と「マンハッタンの奇譚クラブ」を執筆。次男オーウェン誕生。イギリスへ休暇旅行へ出かける。この三カ月の英国滞在期間に『クージョ』の第一稿を執筆したり、ピーター・ストラウブと知り合ったりしている。そして帰国後、バックマン名義で『ハイスクール・パニック』を上梓(じょうし)。
  • 一九七八年 三十一歳

     二月に第一短編集『ナイトシフト』(邦訳版は『深夜勤務』と『トウモロコシ畑の子供たち』)、九月に長編『ザ・スタンド』を刊行。この後、出版社をダブルデイ社からヴァイキング社に変更する。

    「ダブルデイ社のことは、ぼくを作家として売り出してくれた出版社として感謝しているけど、カバーのセンスは悪いし、宣伝はほとんどしてくれない。しかも、ぼくがベストセラー作家になったあとでも、デビュー当時の印税率だった。ようするに、もっと条件のいい出版社に変わりたかったんだ」

  • 一九七九年 三十二歳

     母校メイン大学で講師を務める。昼は講義をし、夜はその講義内容を初のノンフィクション『死の舞踏』にまとめる。そして、『クリスティーン』と『ペット・セマタリー』ふたつの長編の第一稿を執筆。七月には『死のロングウォーク』をバックマン名義で発表。八月には『デッド・ゾーン』(初版八万部)を刊行し、初のハードカバー・ベストセラー・チャートで第一位となる。十一月には、『呪われた町』のテレビ化『死霊伝説』が放映される。
  • 一九八〇年 三十三歳

     五月に期待されていたキューブリック監督の『シャイニング』が公開される。おかげで、映画タイアップ版『シャイニング』がベストセラー入り、また、八月に刊行された単行本『ファイアスターター』(初版十万部)、およびペーパーバック版『デッド・ゾーン』がチャートの一位に輝く。

    「キューブリックの『シャイニング』は豪華なキャデラックだ。だが、エンジンがついていない。つまり、ホラーの本質をつかみそこねているということさ」

  • 一九八一年 三十四歳

     四月に自伝的評論『死の舞踏』を刊行。五月末には脚本家兼出演者としてロメロ監督の『クリープショー』の製作に参加する。十月に長編『クージョ』(初版三十五万部)を刊行。同時に、『最後の抵抗』をバックマン名義で発表している。タビサ夫人が処女長編『小さな世界』を刊行。

    「妻が処女作を執筆したときには、すごく嫉妬(しっと)を感じたよ。まるで子どもさ。〝おい、これはぼくのオモチャだぞ。それで遊ぶな〟って感じさ。けれど、けっきょく優れた作品だとわかって、そんな思いは誇りにかわった」

  • 一九八二年 三十五歳

     五月にバックマン名義で『バトルランナー』、六月に限定出版『ダークタワー:ガンスリンガー』、七月にコミック版『クリープショー』、八月に中編集『恐怖の四季』(邦訳『スタンド・バイ・ミー』と『ゴールデンボーイ』)を刊行。十月に映画『クリープショー』が封切られる。

    「『クリープショー』は、五〇年代のホラー・コミックスの伝統に基づいているわけで、パロディではなく、再創造だったわけだ。したがって、正当な批評家たちがあの映画を楽しんだとしたら、ぼくたちの意図は惨敗に帰したことになるね」

  • 一九八三年 三十六歳

     四月に『クリスティーン』、十一月に『ペット・セマタリー』を刊行し、冬には限定版『人狼の四季』を出版する。この年の映画化作品の公開は、『クジョー』(八月)、『デッド・ゾーン』(十月)、『クリスティーン』(十二月)の三作。

    「一九七九年に執筆したが、あまりにも恐ろしくて忌まわしいのでこれまで出版を見送っていた作品がある。それが『ペット・セマタリー』だ」

  • 一九八四年 三十七歳

     映画『チルドレン・オブ・ザ・コーン』(三月)と『炎の少女チャーリー』(五月)が公開されたあと、十月にピーター・ストラウブとの共作『タリスマン』、十一月にバックマン名義で『痩せゆく男』、十二月には限定版『ドラゴンの眼』を上梓。
  • 一九八五年 三十八歳

     一月にキングの通信紙〈キャッスル・ロック〉が創刊される。二月にはリチャード・バックマンの正体がキングであることが暴露されて話題となる。六月に第二短編集『スケルトン・クルー』(邦訳『骸骨乗組員』と『神々のワードプロセッサ』)、十月に過去のバックマンの四作を一冊にした『バックマン・ブックス』を刊行。これによって、ペーパーバック版の『タリスマン』と『痩せゆく男』の計四冊が同時にベストセラーのチャート入りという、出版史上の快挙をなしとげる。この年の映画化作品は『キャッツ・アイ』(四月)と『死霊の牙』(十月)だが、いずれも惨憺(さんたん)たる興行成績で終わっている。
  • 一九八六年 三十九歳

     七月、初監督作品『地獄のデビル・トラック』が封切られるが、興行不振に終わる。翌月にはロブ・ライナー監督の『スタンド・バイ・ミー』が公開され、こちらは大ヒット。同月、キングの集大成的大作『IT』が、初版八十六万部という驚異的な部数で刊行されてベストセラーの一位になる。十月六日付けのタイム誌のカバーを飾り、ついに名実ともにモダン・ホラーの王(キング)となる。

    「ブルース・スプリングスティーンとレストランで食事をしていると、近くのテーブルにいた十代の少女がぼくたちのテーブルに近づいてきた。そこで、ブルース・スプリングスティーンがペンを取り出した。だが、彼女は彼にはわき目もふらず、ぼくに向かってこう言った。〝キングさんでしょ? あたし、あなたの作品を全部読んでるのよ!〟」

  • 一九八七年 四十歳

     一月に普及版『ドラゴンの眼』、五月に限定版『ダークタワーⅡ:運命の三人』、六月にバックマンの作品として予定されていた『ミザリー』、そして十一月に『トミーノッカーズ』が刊行される。映画化作品では、十一月に『バトルランナー』が公開されている。この年の五月頃から翌年の五月まで、キングは大スランプに陥り、まったく小説が書けなくなる。
  • 一九八八年 四十一歳

     ライターズ・ブロックに陥ったために、この年はキングの新作は一冊も刊行されていない。刊行物は、一月に『ドラゴンの眼』、五月に『ミザリー』、九月に『ダークタワー:ガンスリンガー』、十一月に『トミーノッカーズ』といったぐあいに、すでに発表された単行本のペーパーバック版のみ。
  • 一九八九年 四十二歳

     三月に『ダークタワーⅡ:運命の三人』の普及版、限定版『ドーランズ・キャデラック』と『マイ・プリティ・ポニー』を刊行。四月には映画『ペット・セマタリー』が公開される。そして、十一月にようやく新作長編『ダーク・ハーフ』(初版百二十万部)を発表。十二月にはキングの通信紙〈キャッスル・ロック〉が廃刊になる。
  • 一九九〇年 四十三歳

     五月に『スタンド』の無削除完全版、十月に中編集『真夜中四分過ぎ』を刊行。同月に映画『地下室の悪夢』が封切られて不評に終わるが、十一月にテレビ・ミニシリーズ『IT』および十二月のロブ・ライナー監督の『ミザリー』が好評を博してヒットする。
  • 一九九一年 四十四歳

     一月に限定版『ダークタワーⅢ:荒地』を刊行。四月、アン・ヒルトナーという女性が、『ミザリー』は私の作品を盗作したものだとしてキングを訴える。同月、キング邸にエリック・キーンという男が侵入して爆弾を仕掛ける。十月、長編『ニードフル・シングズ』を発表。

    「いまでも、ファンは大好きだよ。ファンがいてくれるからこそ、いまなお我が家の食卓に食べ物がならぶわけだしね。たしかにときおり頭のいかれた連中が出てくる。侵入事件の犯人について言えば、あの種の事件が起こる潮時だったというだけのこと」

  • 一九九二年 四十五歳

     一月に普及版『ダークタワーⅢ:荒地』を刊行。四月、キングが脚本を書き下ろしたテレビ・ミニシリーズ『ゴールデン・イヤーズ』が放映される。五月、エイミー・タンやリドリー・ピアスンといった作家仲間とロック・バンド〈ロック・ボトム・リメインダーズ〉を結成。この年は六月に『ジェラルドのゲーム』、十月に『ドローレス・クレイボーン』といったぐあいに二冊の長編を刊行。

*一九九三年「野性時代」に掲載された記事の作品名の一部に加筆・修正をしております。

スティーヴン・キング 独占ロングインタビュー

野性時代編集部 〈インタビュアー〉郡司聡

7月1日朝5時、むこうは6月30日午後3時だ。受話器を持つ手が震えた。
だが、キングの声は、暖かく、明るく、私の緊張を瞬時のうちに溶かしてくれた。

いまキングが立っている世界

――日本からのインタビューをお受けになるのは、これが初めてだと思いますが。

キング ええ、初めてですね。何度か頼まれたことはありましたが、お断りしていたので――。
 そちらでは私の本は売れてますか。評判はどうです。

――もちろん、大ベストセラーです。

キング そう? それは良かった。

――日本では、モダン・ホラーといえばあなたと言われるほどなんですが、それほどのベストセラー作家になってから、小説というものに対する考え方は変わりましたか。

キング 少しだけ変わったと思いますね。小説を書き始めたころは、吸血鬼とか狼男とか、怪物を題材にしていたんですが、何冊目かになると、人間の内面に巣くう邪悪なビジョンを描くようになりました。たとえば『ジェラルドのゲーム』〈*1〉は、ある女をつけ回す気の狂った殺人者の話なんですが、さらにこの女の夫は、自分が死んだあと妻も死ぬように、妻を縛りつけておくんです。そんなふうに、扱う恐怖が少し現実のものに近くなりましたね。『ミザリー』以降でしょうか。

――アメリカのメイン州に住んでいらっしゃいますが、その環境が作品にどんな影響を及ぼしていると思いますか。

キング 私の住んでいるところは、とても田舎なんですよ。だから作品ではいつも田舎が舞台なんです。都市を舞台にしたり、人が密集している中での恐怖を題材にしたことは、ほとんどありません。こういう題材ですごいホラー小説もありますけどね。
 今でもはっきり憶えているんですが、私の処女作『キャリー』が日本語に翻訳されて、その初版本をもらったんです。ところが、どうやって見たらいいかも分からない。表紙の絵のせいでどっちが上でどっちが下か、裏表もなにも分からなかった。それで仕方なく、日本との版権交渉を担当してくれた男に尋ねたんです。「ねえ、日本ではこの本は人気があるのかい」「なんだって?」「いったい日本人はこの小説が気に入っているんだろうか?」そうしたら彼は言いました。「そうとも。日本ではこれは村に住んでいる小さな女の子の話と思われているよ」まったく、これこそ私が書いたことを完璧に言いあててますよ。テーマは時によってちがいますが、アメリカの村の生活の中の物語、それを描きたいんです。

――しかしあなたの本を読むと、アメリカや、あなたの住んでいるところは、とても怖い気がしますね。

キング ハハハ……。でもいい面もあってね。列車の駅には遠いかもしれないけど、私は自分の故郷が大好きですよ。アメリカも好きだけど、自分の生まれ育ったニューイングランド地方の人々や、小さな世界が大好きですね。

――自分の故郷を見つめることで、アメリカ全体や、さらに世界を見ているということになりますか。

キング そうかな。まあ、そこしかよく知らないのでね。あまり海外旅行はしないんです。イギリス、フランス、あとヨーロッパの国にいくつか行ったことがある程度です。人口九百人の小さな町で育ちましたから、ほとんどいつも小さな町を舞台にしていますね。

――子供のころの体験は作品にどんな影響を与えていますか。さっきの質問とも関連すると思うんですが。

キング もうある程度、答えてしまったけど、小さな町に育って、そこでの生活、人がどんな噂話をするかなどを、よく見て育ちました。そして時とすると、田舎ではひどく寂しいことがあって、疎外されているような感じがして……幽霊が出そうな感じがするとしか、うまく説明できないんですが。人があまりたくさんいない場所、いいホラー小説が書けそうな場所なんですよ。だから気に入っています。

――自分にとって特別な場所ということですか。

キング ええ。

――あなたの想像力にはいつも驚かされますが、そのもとになるもの、源泉は何なのですか。

キング わかりませんねえ。

――わからない?

キング ええ、でもいい点をついた質問だと思います。それは心の奥底からやって来る場合もあるんですが、想像力というよりは、ものが実際にそこに在るんですよ。目の色とか鼻の高さとか、背が高いとか低いとか、そんなふうにね。そしてそれがたまたま私にはよく見えるんです。私は想像力を働かせて空想上のものを創り出すのも大好きですが、心の眼で、実際にあるものをよく見ることができるんです。これは楽しい。たとえば『ジェラルドのゲーム』は、ベッドに鎖でつながれた女性の話ですが、全編ひとつの部屋だけでストーリーが展開します。しかし、私には部屋のあらゆる点が見えるので、読者にもそれがリアルに見えてくるし、ひとつの部屋もまた新たな視点で見られることになるわけです。

「書くこと」が私を作家にした

――次の質問は難しいかもしれませんが、あなたにとって書くこととは何ですか。

キング それから、超ベストセラー作家になって、自分が変わったかどうかということ?

――ええ。

キング 書くことは私の生活そのものなんです。やり方を知っていることといえば、これしかありませんから。

――いつ作家になろうと思ったのですか。

キング 自分でそう思ったことはないんです。向こうが選んだんですよ。私が「作家になりたい」と言ったんじゃなくて、書くことのほうが「お前だ」と言ったんです(笑)。
 毎日書くようになったのは八歳ぐらいのときからで、ストーリーを作っては書いていました。書くことはずっと好きでした。ベストセラー作家になっても、仕事のしかたやストーリーの作り方はあまり変わっていないですね。ストーリーにしようという考えはなくて、ただアイデアが浮かんだのでそれを書きつけていると、知らないうちに新しい小説になっているといったことが多いんです。

――日本人のベストセラー作家で、常に書いている人がいます。一種の天才だと思いますが。あなたの熱烈なファンなんですよ。この人を見ていると、人生すなわち書くことで、書くのをやめるときは死ぬときじゃないかと思います。

キング そういう感じは分かりますよ。私もよく、書くのをやめたら自分はいったいどうなるんだろうと感じることがあります。でも私のような人種はいるんですよ。ジョイス・キャロル・オーツをご存知ですか。

――ええ。

キング 彼女は毎日毎日、書くんです。取りつかれたみたいに。義務みたいに。とにかく毎日です。毎日書いたら、たくさんの言葉を書くことになる。単純な足し算で、たいへんな量を書くことになります。私はそれはしないけれども、今でもほとんど毎日、書いています。好きですからね。とにかくお金のために書いているのでは絶対にない。もうお金は要らないんだから(笑)。

――そうでしょうね。

キング この仕事が好きだからやっているんです。

――普通は一日に何時間、執筆されますか。

キング 一日にだいたい四時間。

――午前中ですか?

キング ええ。昔はもっと短い時間でたくさん書けたんですが、最近は時間がかかるようになりました。中年になって、頭の回転が鈍くなってきたんでしょう。

善と悪、そして神の存在

――あなたの作品には哲学的なテーマがあると思うんです。たとえば『ペット・セマタリー』には死の問題、『シャイニング』には親子関係の問題、『暗黒の塔(ダークタワー)』はかなり複雑ですが、時間、次元、空間といった問題が含まれていますね。

キング 日本では『暗黒の塔(ダークタワー)』シリーズはどうなっているんですか。

――評判はとてもいいですよ。今年の冬にはⅡを刊行する予定で、Ⅲも春までには出せると思います。

キング もし私に傑作があるとすれば『暗黒の塔(ダークタワー)』シリーズでしょうね。もっとも力の入った作品だし、哲学的にも難解です。
 私の作品の根本に流れる哲学は、「善はふつう、悪にうち勝つが、その代償は大きい」ということです。『ペット・セマタリー』『シャイニング』、そして『暗黒の塔(ダークタワー)』シリーズでも、作家としてずっと自分に問いかけているのは「善は行なうだけの価値があるか」ということなんです。これは現在、私たちが直面している一番重要な問いかけだと思います。善を行なうのはこれまでもとても難しかったのですが、これからますます難しくなっていく。日々テクノロジーが進化して、人間が善であろうとする力を凌いでいますから。人間はとても単純な生き物で、まだまだ動物に近い。だから車を運転していて無理に割り込まれたりすると、飛び出していって首根っこをつかんで引きずり出し、絞め殺してやりたいとその一瞬は思うんです。そういう動物的な本能がまだ残っている。
 そして、アメリカにはイラクに宣戦布告できるほど高性能の爆弾を製造する能力があり、それがトラックの荷台に積んである状況なんです。これと動物的な本能という組み合わせは非常にまずい。
 アメリカが日本に原子爆弾を落としてからおよそ五十年、つまり半世紀近くも、誰も原子爆弾を使わなかった。これはたいへんなことです。原子爆弾は見回してみれば、そこらじゅうにあるんですからね。どこかに神がいるにちがいありませんよ。そうとしか考えられない。だって人間は自分でそんなふうにできるほど賢くないですから。我々の半分は、一週間だって平常心を保ちつづけて過ごすことができない。そういう我々の手に世界の運命が握られているんです。

――人間と動物のちがいはなんだと思いますか。

キング さあねえ……。まあ一つには年中セックスをしているということかな(笑)。まず思いつくことはそれですね。動物の中でセックスをする季節が決まっていないのは人間だけです。やりたいときにやる、それだけでしょう。それが一つのちがい。それから――人間は自分が何に向かって進んでいるのかを知っている、つまり死ぬことを知っている唯一の動物です。そして知っていながら、不思議に発狂しないで生きていける。

――では神を信じていますか。

キング 実を言うとね。

――死んだ後はどうなると思います?

キング ……分からないな。死んだ後どうなるかについては、神様を信頼してますよ。

――考えたこともありませんか?

キング いえ、考えますとも。しかし結論が出ないんですよ。死んだら雲の上にのぼるとかいうクリスチャンの考え方は、ばかばかしいと思うし、信じられませんね。

――今までに強く影響を受けた本はありますか。

キング 聖書ですね。善悪の観念を得たのは主に聖書からだし、ホラーのアイデアもたくさん聖書からもらっています。聖書には怖い話が多いですからね。

――聖書は最高の文学だとも言われていますしね。

キング ええ。聖書は物語としても優れていますよ。サロメ、七日間の天地創造、バプテスマのヨハネ、ダビデ王などなど、素晴しい物語です。

――他の宗教に興味はありますか。

キング そうでもないですね。いろいろ読みあさってはいるけど、一つの宗教に熱心に興味を持っているということはありません。だいたい、宗教が人間にとって良いものであるかどうか、疑わしいと思っているんです。宗教が戦争の大義名分にされたことが何回もありましたからね。思想として面白く、気に入っているものはあります。たとえばマホメットの思想で、自分の手に入らないと諦めなくてはならなかった物や快楽は、手に入ったものとして楽しまなくてはならないというのがあります。実際の人生以上に楽しむんです。だから酒も女も何もかも、手に入らないものはないというわけ。すごい思想ですよ(笑)。生まれ変わりというのも面白いと思います。禅、仏教などなど、面白い宗教はたくさんある。しかし自分がいわゆる「信心深い」人間だとは思いませんね。

――ところで、あなたにとって「恐怖」とはいったい何でしょうか。最も恐ろしいこととは何でしょうか。作品の中でも、日常生活の中でもけっこうなんですが。

キング いちばん簡単な答え方としては、恐怖とは何でも私を強烈におびえさせるものであるということでしょうね。作家を職業とする私としては、まず何よりもホラー小説は素晴らしいものだと思います。ずっと読者を引きつけておけますからね。私が一番やりたいのは人を楽しませることなんです。日常の雑事を忘れて、しばらくのあいだ私と想像の世界に遊んでもらいたいのです。これができるというのは嬉しいことだし、そういう意味で楽しい仕事でもあります。
 しかし恐怖そのものは――吸血鬼、狼男、クローン、〝IT〟などの怪物は、実際は死や病気といった現実の問題の化身なんです。何が起こるのか、どう対処したらいいかを考え、なんでそんな目に遭うのかさっぱり分からないが、恐怖はやって来るものだということを知ってもらう、そういうことのための化身なんです。私ができることといったらそのぐらいで。

――日常生活では何がいちばん怖いですか。

キング 蜘蛛は苦手ですね。子供が死んだらと考えることも。それとインタビュー(笑)。まあ、時によっていろいろなことが怖いと思います。たとえば狭い場所に閉じ込められたら怖いなと思うこともあるし。

『暗黒の塔(ダークタワー)』シリーズのこれから

――昔の作家でもいいんですが、特に好きな作家はいますか。

キング 安部公房が好きですね。日本の小説家でちゃんと知っているのは彼ぐらいなんです。彼は素晴しい作家です。つい最近死にましたが、ウイリアム・ゴールディングも好きです。アメリカのホラー小説の中では、ピーター・ストラウブの作品が好きです。

――そうですか。角川は彼の作品も出版しているんですよ。

キング たいへん興味深い作家だと思います。

――『暗黒の塔(ダークタワー)』はこの先どうなっていくんでしょう。Ⅳはいつ出ますか。

キング 二年以内ですね。Ⅳはたいへんなんです。Ⅳができればあとは書き終えるだけになると思います。「死が私の口を閉じる前に」ぜひ書き終えたいと思っているんです。

――書き終えるのに三百年かかると書いていらっしゃいますが。

キング そうなんです。しかし、チャールズ・ディケンズは『エドウィン・ドルードの謎』を未完のまま残して死にましたが、ああいうことはしたくないんですよ。できるかどうか分かりませんが、書き終えたいとは思っています。

――あと何冊くらいになると思いますか。

キング あと四冊ですね。

――ところで、日本にはどんなイメージをお持ちですか。

キング これも二種類あるんです。一つは映画などから得た実際のイメージ。あまりたくさんは知らないんですが、たとえばゴジラです。東京をノシノシ歩き回っている姿。だからまず日本と言われてイメージするのは、海の中から――つまり心の中からなんでしょうが――大怪獣が現れてきた都市というものがありますね。それからふつうの人と同じように原子爆弾の被爆地などを連想しますね。今は東京にはものすごく活気のある都市というイメージがあります。しかし日本の田舎はぜひ行ってみたいと思いますね。都市にはあまり関心はありません。東京に行きたいとは思わない。人が多すぎてね、怖いですよ。

――ええ、人口が多すぎますね。世界でも最もごちゃごちゃした都市のひとつですから。
 最後に、日本の読者、ファンにメッセージを。みんなこのインタビューをとても楽しみにしているんですよ。


キング 私にお手紙をください。本の感想を聞かせてください。どう受け取られたか知りたいんです。これがメッセージです。

――ファンレターは来ますか。

キング ええ、よく来ますよ。

――日本からですか。

キング ええ。たいていは英語を勉強している若い人たちです。ええと……こう言えばいいかな。彼らは私の日本語よりはるかにうまい英語を書きます(笑)。私は日本語は全然できませんからね。ドウモアリガトウ、せいぜいこんなもので。

――あなたの作品には、映像化されたものが多いと思うんですが、特に新作の映画『スリープウォーカーズ』〈*2〉はどんな話なんですか。

キング まだ日本では公開されていないんですか。

――まだです。

キング 公開されたら観に行ってください。よく出来た映画だと思いますが、筋は教えるわけにいきませんよ。

――分かりました。どうもありがとうございました。

〈*1〉一九九二年に刊行されたキングの作品。二〇〇二年文春文庫刊行。
〈*2〉キングのオリジナル脚本による映画。

*このインタビューは1993年に刊行された『野性時代』8月号に掲載されたものに、修正を加えたものです。

キング探訪

ぼくがちいさいのではない。キングがでかすぎるのだ。約195センチある。
ぼくがちいさいのではない。キングがでかすぎるのだ。約195センチある。
野球好きのキングは地元リトルリーグのコーチをしているのだが、ぼくがちいさかったので(ちなみに身長170センチです)、おまえも少年チームに入れと言って、キャップをかぶせられた(笑)。
野球好きのキングは地元リトルリーグのコーチをしているのだが、ぼくがちいさかったので(ちなみに身長170センチです)、おまえも少年チームに入れと言って、キャップをかぶせられた(笑)。
キングはメイン州にいくつか自宅を所有しているが、一番有名なのがバンゴアにある大邸宅。その正門にて。
キングはメイン州にいくつか自宅を所有しているが、一番有名なのがバンゴアにある大邸宅。その正門にて。
キング邸のほぼ全貌。ちょっとしたホテル並みの大きさです。
キング邸のほぼ全貌。ちょっとしたホテル並みの大きさです。
キングが少年時代に極貧生活を送っていたころの家。右隣にちいさな教会があるだけで、あとは見渡すかぎり野原ばかりで何もない場所です。
キングが少年時代に極貧生活を送っていたころの家。右隣にちいさな教会があるだけで、あとは見渡すかぎり野原ばかりで何もない場所です。

文・風間賢二

傑作揃い! スティーヴン・キング原作の映像作品

 スティーヴン・キング? 誰それ、聞いたことない、という人でも、映画のタイトルをあげて説明すると、けっこう知っていたりします。たとえば、『スタンド・バイ・ミー』や『ショーシャンクの空に』、あるいは『グリーンマイル』など。こうした癒し系ヒューマン・ドラマの原作者がキングなのです。

 他にもキング原作の映画がたくさんあります。ホラー映画ですが。というより、こちらのほうがキング作品はメインなのです。『キャリー』や『シャイニング』、『ペット・セメタリー』、『ミザリー』、『ミスト』など枚挙に暇がありません。なにしろキングの作品(これまでに長編・中短編集など60点ほどあります)のおおかたが映像化されていると言っても過言ではないのです。
 ここでは5本だけセレクトして、簡単に紹介します。
まずは、スティーヴン・キング初心者向けの心温まる作品を2点。

 ひとつ目は、『スタンド・バイ・ミー』(1986)です。原作のタイトルは「The Body」。意味は「身体」ではなく、「死体」です。小学六年生の男の子たち仲良し四人組が夏休みに、〈宝探し〉ならぬ〈死体探し〉に出かける話です。50年代に少年時代を過ごしたキング自身の体験がもとになっています。とにかくノスタルジックで切ない物語です。大人になってから鑑賞すると(ことに男性の場合)、号泣ものです。

  • 『スタンド・バイ・ミー』
  • 『スタンド・バイ・ミー』

『スタンド・バイ・ミー』
発売中 Blu-ray / ¥2,381(税抜)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©1986 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

 ふたつ目は、『ショーシャンクの空に』(1994)で、原作の邦訳タイトルは「刑務所のリタ・ヘイワース」です。脱獄ものです、とネタバレしても、この名作の興趣を減じることにはなりません。19世紀ロシアの大文豪トルストイの短編「神の審判」を下敷きにしているだけあって、深い内容を有しています。同じく刑務所を舞台にした傑作『グリーンマイル』と見比べてみるのも一興でしょう。男同士の熱い友情が感動ものです。

  • 『ショーシャンクの空に』
  • 『ショーシャンクの空に』

『ショーシャンクの空に』
ブルーレイ2,381 円+税/DVD¥1,429 +税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

 さて、ここからは、すでにキングの作品に馴染みのある方、それも〈ダークタワー〉シリーズに関心のある人向けの作品を3点取り上げます。

 まずは初期キング作品の傑作のひとつ、『シャイニング』(1980)です。モダンホラーにおける幽霊屋敷ものの金字塔として知られています。これを映画化したのが名匠スタンリー・キューブリック監督だったのですが、キングは恐れ多くも、その出来栄えに難色をしめし、自らTVドラマ『スティーヴン・キングのシャイニング』(1997)として再映像化までしています。しかしながら、今日ではキューブリック版『シャイニング』は、ホラー映画の古典的名作とまで称されています。ところで、この作品内で語られる超能力〈シャイン〉が、〈暗黒の塔〉と重要な関係があるのです。そして、メイン・キャラクターのひとり、ジェイク少年にも、その能力があり……これ以上はネタバレになりますので、その先は黙して語らずと決め込みましょう。

  • 『スティーヴン・キング シャイニング』
  • 『スティーヴン・キング シャイニング』
    DVD特別版¥1,429 +税
    ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

 ふたつ目は、『ミスト』(2007)です。冒頭のシーンで、主人公のイラストレーターの描いている作品がローランドらしきガンスリンガーであることは有名ですが、濃霧の中を徘徊している怪物は、〈ダークタワー〉シリーズⅢ巻『荒地(下)』の中で描写されるモンスターたちです。ちなみに、『ミスト』のラストの展開は原作と大きく異なり、サプライズエンディングが待ち受けているのですが、そのために「見たあとで鬱になる映画ベスト」の上位に必ず選出される作品でもあります。

  • 『ミスト』
  • 『ミスト』
    発売元:ブロードメディア・スタジオ
    販売元:ポニーキャニオン
    価格:DVD¥1,800(本体)+税、Blu-ray¥2,500(本体)+税
    (C)2007 The Weinstein Company,LLC.All rights reserved.

 みっつ目は、TVドラマ『ザ・スタンド』(1994)です。感染症のウィルスによって崩壊した世界でサバイバルする人々を語った長大な群像劇ですが、悪のメイン・キャラクターがランドル・フラッグなのです。つまり、マーテンであり黒衣の男です。この破滅後のアメリカの様子は、〈ダークタワー〉シリーズⅢ巻『荒地(下)』やシリーズⅣ巻『魔道師と水晶球(上)』で語られています。 (文・風間賢二)

  • 「スティーヴン・キングのザ・スタンド」
  • 「スティーヴン・キングのザ・スタンド」
    DVD発売中:4,700円(税抜)
    発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

「ダークタワー」への道

 スティーヴン・エドウィン・キングは1947年9月21日にメイン州で生まれました。現在もメイン州バンゴアで作家活動を行っています。いわゆる地方主義の作家です。したがって、キングの作品の多くはメイン州が舞台になっています。

 父親のドナルドはキングが2歳のときに、妻子を捨てて失踪してしまいます。その結果、キングは母親ネリーの女手ひとつで育てられます。兄デイヴィッドがいますが、養子です。なかなか複雑な家庭環境でした。しかも、当然ながら超絶貧困暮らしです。風呂がなかったために、真冬の凍えるような夜でも、風呂に入らせてもらうために何キロも歩いて親戚の家まで通ったほどです。

 キングのそうした極貧生活は地元のメイン州立大学を卒業し、高校教師になってからもつづきました。教師の給料は安いうえに、すでにキングは結婚して子供まで誕生していたからです。まともなアパートを借りることもできないので、トレイラーハウス(固定されたキャンピングカーのようなものを想像してください)に住んでいたほどです。

 しかし、アメリカはホレイショー・アルジャーの国です。つまり、「ボロ着から富へ」、努力・勇気・決断を積み重ねることによって、最下層出身の人間でも成功者となれるのです。いわゆるアメリカン・ドリーム。キングはまさにその格好のお手本です。面白いのは、アメリカの悪夢(腐敗・狂気)を描くことで、アメリカの夢を手に入れたことです。

 具体的には、長編デビュー作『キャリー』(1974)です。以降、40年以上にもわたってベストセラー作家の地位を確保しています。アメリカン・ブギーマンとかモダンホラーのブランドネームと称され、いまやコカ・コーラ、マクドナルド、ディズニーなどとならんでアメリカン・ポップカルチャーの代表的な存在となっています。

 今日では、アメリカ文学の分野においても数々の賞を受賞して、アカデミズムの世界でも看過できない作家となったキングの多様な作品群の枢軸となっているのが、〈ダークタワー〉シリーズです。このダークなエピック・ファンタジーにはキングのエッセンスが詰まっているのです。 (文・風間賢二)

賞賛の声、続々!

  • キングは現代の語り部の名匠であり、
    その才能が十全に発揮された物語が本書である。

    ——ロサンジェルス・デイリー・ニューズ紙

  • 面白い……読みだしたらやめられない……キングは読者をとりこにする。

    ——シカゴ・サンタイムズ紙

  • 神話的規模を備えた素晴らしい作品。
    スティーヴン・キングの最大の文学的業績となるかもしれない。

    ——アトランタ・ジャーナル・コンスティテューション紙

  • あらがうことのできない強力な渦巻きのようなストーリー。
    読者はいやがおうでも中心に引きずり込まれていく。

    ——ミルウォーキー・ジャーナル・センティネル紙

  • 生き生きとしていて、血肉のかよった、リアリティのあるキャラクターを
    創造することにかけて、今日の作家でキングの右に出る者はいない。

    ——ボルティモア・サン紙

  • 実に見事だ……キングの鮮烈なイメージや比喩表現のおかげで、
    読者はローランドとともに渇望し、泣き叫び、そして瀕死の状態におちいる。

    ——シカゴ・ヘラルド・ホイートン紙

  • 楽しくて……もっともっと読みたくなる。

    ——バンゴア・デイリー・ニューズ紙

  • 最盛期のキング……サスペンス溢れる……
    ホラー作法における技巧のてんこ盛り……創作途上にある叙事詩的大作。

    ——カーカス・レビュー誌